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彼と彼女の放課後
彼と彼女の放課後<XXXIV>
しおりを挟む「……飽きないね」
という呟きのあと、へにゃりと笑った顔を見て思い出す。向かい合っているのは、静止画ではなく実物の彼だった。
「え?」
「こうして、きみと見つめ合って、キスして……ってしてるの。時間の概念がなかったら、いつまででも飽きないんじゃないかと思って♡」
見上げる首の後ろが熱い。
「いつまでもなんて、大袈裟じゃない?♡」
「そうかな?♡ きみはしたくない?♡♡」
鍾愛に蕩けた瞳の奥で、欲望の火が灯された。いまにも押し倒されそうな雰囲気だ。
「わたしも……こうしてたい……けど♡♡」
名残惜しいけれど、鳥たちの声もカーテンを透かす光の色も、これからやってくる夜を知らせている。
「…………ねぇ。仮眠は……? 寝なくていいの?♡」
「そうだったそうだった♡♡ 門限もあるし、これ以上は予定後ろ倒しにできないもんね。……ところで、さっきのお願い、覚えてくれてる?♡♡」
「……君のお願い……♡♡」
唇の形は『い』、『っ』、『て』と推移した。――――『言って』。彼がわたしに願ったことは――――。
「『声だけじゃなくて、ちゅーして起こして』、だったよね?♡」
そっくりそのままではなかったと思うけれど、記憶している限り正確に声に出した。
「ねぇねぇ♡ いまのもう一回言って♡♡」
すると、彼は人差し指を立ててから、両手を合わせて頼み込んできた。
「? こえだけじゃ、なくて……。ちゅーしておこし…………っ、んっ♡♡」
よくわからないまま同じ言葉を繰り返している途中で、ぱくっと食まれてしまった。
深いキス――――のなかではライトなほうに入ると思う。
洋画の恋人たちは人前でも平気でしている程度……とはいえ、その先には進んでいない現時点のわたしたちにとっては、最も濃厚なスキンシップ。
こんなことをされた直後に、頭を勉強モードに切り替えろなんて無茶だ。
「……どうして急にこんなえっちなキスしたの……♡♡」
「きみが『ちゅーして♡』って言ったから♡」
尖らせた唇に押し当てられた指の先からは、香ばしいバターの香りがした。
「君が言わせたんでしょ?♡」
「あはは♡♡ ごめんね♡♡」
再び彼は両手を合わせた。先ほどが『お願い』だとしたら、今回は『謝罪』――――と見せかけて『ごちそうさま』かもしれない。
「…………いまのは『おやすみ』のちゅーだから、『おはよう』はよろしくね?♡♡」
しかし、そのまま小首を傾げて再度『お願い』してきた彼相手に、黙って頷くことしかできなかった。
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