三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<Ⅴ>

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 二限目の化学の時間。開始直後、返してもらったばかりのノートを開くと、すんなりと最新のページを開くことができた。

(あれ? 癖はなるべくつけないように気を付けてるのに、珍しいこともあるんだなぁ)

 ――――と思ったけれど、すぐにその現象が起きた理由に合点がいった。

(? なんか肘のほうがカサカサするなぁ。擽ったい…………)
 
 シャーペンを握ったまま腕を上げて確認すると、右側のページの下部は大判のポストイットが貼られていた。

(前回は初出の内容なかったし、特に貼ったおぼえないんだけどなぁ。……っていうか、こんなポストイット持ってない……ってことは、彼が貼ったんだ!)
 
 ぱっと最新のページまで飛ぶことができたのは、どうやら偶然ではなかったらしい。

(書き忘れてるとこ補足してくれたのかな? それかアドバイス?)
 
 どきどきしながら、右上がりのスタイリッシュな筆跡を追う。

 迷いのない筆運びが意思決定の速度を如実に表しているかのような彼の字を、わたしは額縁に入れて飾りたいほど好きだった。

 『今日はうっかりさんだったけど、いつもはしっかり者のへ。もう忘れ物しちゃダメだよ♡ 今日も一日頑張ろう!』
 
(さっきの視線って、そういうこと……!? 彼にとって『忘れ物』って言ったら、シンデレラのガラスの靴なのかな。……ふふ♡ かわいい♡♡)

 教科書を立てて口元に広がる笑みを隠す姿を、斜め右後ろの席の窓華ちゃんに目撃されていたと知ったのは、次の休み時間のことだった。



 ――――そして、待ちに待ったお昼休み。

「どこもカップルだらけだったね。いつもこんなに見つからなかったっけ……?」

「俺は別に気にしないけど、向こうが気にするだろうし、俺たちにはいざとなれば生徒会室があるし……。ね、頼れる書記さん?♡」

 困惑気味に尋ねたわたしの背中に、あたたかな手が添えられた。

「そうだね。大人気の会長さん」

 わたしたちはいつも、空いている適当な教室でお昼ご飯を一緒に食べている。

 しかし、今日はどういうわけか空き教室を見つからず、急遽、別棟の生徒会室まで足を延ばすことにした。

「大人気はそっちでしょ♡ きみの隠れファンは多いんだよ?♡ ちなみに俺もそのひとりだけど♡♡」

 これも生徒会役員の特権だ。普段から大多数の生徒はしないで済む面倒な仕事をこなしているのだから、お昼休みに恋人とふたりっきりになるくらいの恩恵を受けたって、罰は当たらないと思う。

 片方だけでなく、どちらも生徒会に所属しているのだから、文句を言われる筋合いもない。

「……そのわりには……全然隠れてないんじゃない?」

「そうかも♡ でも、隠す必要ないし…………あ」

「どうしたの?」 

「もうすぐ着いちゃうけど、手繋いで行こっか♡ ここまできたら、人もいないし♡」

 身体の横でゆらゆら揺れていた手は、呆気なく捕らえられた。『ライバルが何人いようが、誰にも渡す気はない』と宣言されているようで、ほんの少し擽ったかった。
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