45 / 489
Interlude
Interlude<Ⅴ>
しおりを挟む二限目の化学の時間。開始直後、返してもらったばかりのノートを開くと、すんなりと最新のページを開くことができた。
(あれ? 癖はなるべくつけないように気を付けてるのに、珍しいこともあるんだなぁ)
――――と思ったけれど、すぐにその現象が起きた理由に合点がいった。
(? なんか肘のほうがカサカサするなぁ。擽ったい…………)
シャーペンを握ったまま腕を上げて確認すると、右側のページの下部は大判のポストイットが貼られていた。
(前回は初出の内容なかったし、特に貼ったおぼえないんだけどなぁ。……っていうか、こんなポストイット持ってない……ってことは、彼が貼ったんだ!)
ぱっと最新のページまで飛ぶことができたのは、どうやら偶然ではなかったらしい。
(書き忘れてるとこ補足してくれたのかな? それかアドバイス?)
どきどきしながら、右上がりのスタイリッシュな筆跡を追う。
迷いのない筆運びが意思決定の速度を如実に表しているかのような彼の字を、わたしは額縁に入れて飾りたいほど好きだった。
『今日はうっかりさんだったけど、いつもはしっかり者のシンデレラへ。もう忘れ物しちゃダメだよ♡ 今日も一日頑張ろう!』
(さっきの視線って、そういうこと……!? 彼にとって『忘れ物』って言ったら、シンデレラのガラスの靴なのかな。……ふふ♡ かわいい♡♡)
教科書を立てて口元に広がる笑みを隠す姿を、斜め右後ろの席の窓華ちゃんに目撃されていたと知ったのは、次の休み時間のことだった。
――――そして、待ちに待ったお昼休み。
「どこもカップルだらけだったね。いつもこんなに見つからなかったっけ……?」
「俺は別に気にしないけど、向こうが気にするだろうし、俺たちにはいざとなれば生徒会室があるし……。ね、頼れる書記さん?♡」
困惑気味に尋ねたわたしの背中に、あたたかな手が添えられた。
「そうだね。大人気の会長さん」
わたしたちはいつも、空いている適当な教室でお昼ご飯を一緒に食べている。
しかし、今日はどういうわけか空き教室を見つからず、急遽、別棟の生徒会室まで足を延ばすことにした。
「大人気はそっちでしょ♡ きみの隠れファンは多いんだよ?♡ ちなみに俺もそのひとりだけど♡♡」
これも生徒会役員の特権だ。普段から大多数の生徒はしないで済む面倒な仕事をこなしているのだから、お昼休みに恋人とふたりっきりになるくらいの恩恵を受けたって、罰は当たらないと思う。
片方だけでなく、どちらも生徒会に所属しているのだから、文句を言われる筋合いもない。
「……そのわりには……全然隠れてないんじゃない?」
「そうかも♡ でも、隠す必要ないし…………あ」
「どうしたの?」
「もうすぐ着いちゃうけど、手繋いで行こっか♡ ここまできたら、人もいないし♡」
身体の横でゆらゆら揺れていた手は、呆気なく捕らえられた。『ライバルが何人いようが、誰にも渡す気はない』と宣言されているようで、ほんの少し擽ったかった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる