三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XXXII>

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「だよね?」

 やはり彼はいちばんの理解者だ。嬉しくなって身を乗り出したけれど――――。

「でも、きみに奢りたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるなぁ♡♡ なんでもおいしそうに食べてくれるし、お礼言うときの顔もかわいくてさ……♡♡」

 次の瞬間には手のひらを返して、窓華ちゃんに同調し出した。蕩けるような瞳に捉えられて身動きが取れなくなるのを恐れ、椅子に深く座り直す。

「…………それ、わたしの前で言うことだった……?♡」

「んー……。他の奴にも自慢と牽制兼ねて惚気ることはあるけど、やっぱりこういうのは本人に言わないと意味ないんじゃない?♡♡ 植物の実験の有名なやつ。知ってるでしょ?♡」

「褒めてかわいがると、健康に育つんだっけ?」
 
「そう♡ それ♡♡ きみはいまもうすでに文句のつけどころなんてないくらいにかわいいけど、『かわいい♡』って言い続けたらもっともっとかわいくなるんじゃないかな?♡ ……まぁ、本当はそういう効果を期待してとかじゃなくて、つい口を衝いて出ちゃうだけなんだけどね♡♡」 

 なにもかもがスマートな彼の褒め言葉が惜しみなく降り注ぐ。如雨露から水を、あるいは天から恵みの雨を受ける花壇の花になってしまったような気分だ。

(だけど、彼の言葉がお世辞じゃないって信じられるのは、きっと――――)

「でも、きみがめちゃくちゃかわいくなった姿で俺の前に現れてとであってくれたのは、窓華ちゃんのおかげなんじゃないかと思ってて。さっき話したお花の実験と同じでね」

 思考を読まれてしまったかのような発言に胸がきゅっと疼いた。

「確かにそうかも……? 窓華ちゃんも君と同じくらいたくさん『かわいい』って言ってくれるし、褒め言葉のバリエーションも豊富だし」

 言葉ではない部分で通じ合っている感覚に口元が緩んで。それと比例するように、言葉数もいつもより少しだけ多くなる。

「なるほど。俺も負けてられないな……!」

「え? いまの対抗心燃やすとこだった? 窓華ちゃんのことは大好きだけど、君を大好きなのとは種類が違うというか……。大好きなふたりに争ってほしくないというか…………!」

「冗談は置いといて♡ わかってるわかってる。窓華ちゃんは貴重な味方だし、結託すべき相手だと思ってるよ。敵対するんじゃなくてね」

 おろおろしているわたしを見つめる彼は、穏やかな微笑を浮かべていた。
 
 季節がもう少し早ければ、夕焼けに照らされてよりいっそう美しかっただろうに、日に日に日は短くなって、窓の外の世界はすでに夜に足を踏み入れている。

「よかったぁ」

 ――――ここにいられるのは、長くてもあと1時間程度。きっと30分もすれば、彼はわたしを家まで送り届けるために上着を羽織り出すだろう。

(もっと一緒にいたいなぁ……♡♡ 夜がいちばん深くなって、次に空が明るくなるまで、君といられたら……)

 自分でも、彼とどこまで進展することを望んでいるのかがはっきりわかっているわけではない。

 ただただもっと長い時間をともに過ごしたくて、離れがたくて。彼のカップの中身と似たような色をした髪を人差し指に巻き付けて、恋する瞳で見つめ続けた。
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