三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<LXXVI>

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「…………っ♡♡」

 唇が触れてしまう寸前で呼吸を整えたら、彼の肩がわずかに震えた。

「わ……っ! 擽ったくしちゃってごめんね……! えぇっと、いまからかぷってする…………よ?」

「かわいい予告してくれちゃって♡♡ いつでもおいで?♡♡」

 余裕そうな彼になぜかわたしのほうが怖気づいてしまい、歯を引っ込めて唇で皮膚を挟むことにしたけれど、さらさらの肌の上を滑るばかりで、なかなか思うようにはいかなかった。

「…………うまくいかない?♡ もうちょっとお口大きく開けたらできるんじゃないかな?♡」

 彼はどうしても自分がしたのと同じことをわたしにもされたいみたい。アドバイスに従って口を開いて、意外と厚い肩に歯を突き立てた。

(当たり前なんだろうけど、簡単には傷付かなさそうで安心した♡)

 あれほど『かぷかぷはしない』とのたまったにもかかわらず、いざ肩に噛み付いてみると、いままで感じたことのない食感(?)に感動してしまい、何度も噛んで離してを繰り返してしまう。

(なんかちょっと楽しくなってきちゃった♡♡ そうだよね♡ わたしだって別に噛み付かれてるとき痛いとかなかったもん♡♡ もっと強くして平気かな?♡)

「躊躇ってできなかったのかと思ったけど、ちゃんとかぷってしてくれたね♡♡ かわいい♡♡♡ 子猫みたい♡♡ もっと思いっきりいっちゃってもいいんだけどなぁ♡♡ 歯型ついてもいいし、血が出るくらい強く噛んでもいいし…………♡♡」 

 彼は肩をおもちゃにされてであそばれているというのに、恍惚とした声でハードな願望をさらりと口に出している。

(君がしてほしいって言うことは全部したいけど、やっぱり痛いのはだめ! 今日はこのくらいで勘弁してもらおう……)

 彼の願望がそれ以上エスカレートしてしまう前にかぷかぷするのをやめて、いちばん最初の状態に戻った。そして、そのまま終了すると思わせておいて、歯を立てていた部分をぺろりと舐めてから、ゆっくり顔を離した。 

「もう『ごちそうさま』?♡♡」

 終了の合図を正しく受け取った彼が、ボタンの付いている側のシャツをぱたぱたさせた。微風とともに香ってきたのは、甘いお菓子でも無糖の紅茶でもなく、彼自身の香り。

「うん……♡ 今日は時間もないし…………。でも、また今度させて?♡」 

「もちろん♡ きみがしたいこと教えてきてくれるなんて珍しいね♡♡ 次はもっと時間あるときにしよっか♡」

 ちょっぴり図々しかったかと心配になりながらお願いしてみたら、彼は頷いてシャツを合わせた。続いて、ボタンが上からひとつずつ留められていく。すべてのボタンが留まったら、今日の幸せな時間は――――。
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