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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<Ⅰ>
しおりを挟む時間にして二時間ほどあとだろうか。わたしたちは打ち付ける雨の音を聞きながら、急ぎ足で階段を下りていた。
天気の急変は日常的によくあること――とはいえ、五分足らずで空が暗くなり、激しい雨音が聞こえ出したときはびっくりして窓に駆け寄ってしまった。
「すっっごい降ってるね……!」
昇降口に到着し、とりあえず上履きから靴へと履き替えたけれど、雨足は先ほどよりも強まっているように思われた。
「うん、近年稀に見る土砂降りだね。……ごめん。先帰ってもらってれば、こんなことにはならなかったのに……」
思ったままのことを口にすると、彼は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ううん。わたしだけ濡れないで帰れても、全然嬉しくないし!」
「ありがとう。でも、俺としてはやっぱりきみを無事に帰したかったなぁ……」
空模様のみならず時間帯の関係もあって、あたりはすでに暗くなりかけていたけれど、隣にいる彼の顔ははっきりと視認できる。生まれながらの美貌と相俟って、彼自身が薄く発光しているかのように感じられた。
「雨くらいで大袈裟だなぁ。前に傘忘れて駅までタオル被って走ったことあるけど、別になんともなかったよ?」
「えぇ!? はじめて聞いたと思うんだけど、いつの話?」
彼は目玉が飛び出してしまいそうなほど驚いている。
「一年のときとかかな? 歩いただけじゃわかりにくいけど、走ったら駅までわりと近かったよ。一緒の車両に乗ってた人たちの視線は若干痛かったけどね……!」
「あははっ! でも、分からないよ? その人たちも心配してくれてただけかもしれないし――――」
「あ、そっか!」
「…………きみ、そのときはちゃんと胸元とかガードしてた?」
目付きが突然鋭くなったことを不思議に思っていると、低い声で付け加えられた。
「え? どうだったかなぁ……? たぶんだけど、恥ずかしいのと車内びしゃびしゃにしちゃって申し訳ないのとで、ドアの近くに立って外向いてた気がする……。あと、入学してわりとすぐだったから、肌寒くて下に一枚着てたような……」
透けた下着を見られていないかどうかを気に掛けてくれたのだろう。
(今日は何色の着けてたかな……。彼みたいにインナー着ればいいのはわかってるんだけど、つい着忘れちゃうんだよね。いざとなったら、スクールバッグでガードすればいいかな……というか、それしか方法ないなぁ)
「そう。じゃあ、ひとまずは安心かな♡ ……知らない男におかず提供するなんて、ボランティアにも程があるからね。俺だってまだ見たことないのに……。あ、ちょっと待ってね?♡」
ぱっと笑顔になった彼は、スマートフォンを操作し始めた。ブルーライトに照らされた横顔も、ため息が出るほど美しい。
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