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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<Ⅵ>
しおりを挟む「……あ、待って。スリッパ履かないの?」
追尾型の視線から逃れようとして目に入ったのは、床に置かれた来客用スリッパとぐしょ濡れの靴下だった。
「まだいいや。でも、出してくれてありがとう♡ きみもじゃないかと思うけど、靴下までずぶ濡れだから足拭かせてもらってから借りるね」
「そうだったね! えぇっと、じゃあ……。こっち、ついてきて!」
まずはタオルのある場所に行かなければ。洗面所に続く廊下を示した。
「綺麗なおうちだね。広いし」
数歩ほど進んだところで彼が声を上げた。
半歩後ろを彼が着いてくるのは新鮮だ。わたしたちは大体いつも隣に並んでいるし、そうでないときは彼のほうがわたしの半歩前を歩いてくれるから。
「君のおうちだって綺麗で広いと思うよ?」
でも、それ以外にもなにか物足りない気がして首を傾げていたら、ぱしっと手が取られた。
「え……♡ 手……?♡」
「急にごめんね?♡♡ ちょっと手持ち無沙汰でさ♡ もし嫌だったら振り払ってもらっていいから♡」
――――そうか。いつもと違っていたのは位置関係だけではなかったのか。
「さっきの話だけど、俺もそう思ってるよ。すごくいいところに住まわせてもらってる。『ある程度スペースに余裕があったほうが心にも余裕が生まれるだろう』っていう父さんの厚意なんだけど、ひとりで住むには少し広すぎるくらいなんじゃないかな。あくまで俺の感覚だけどね?」
彼のお父さんは海外で会社を経営しているそうだ。
彼がいずれ継ぐというその会社の名前をこっそり教えてもらったとき、その場で検索してみたところ、そこそこ大きい企業のようで腰を抜かしてしまったのはいつのことだったか。
卒業後、彼には向こうの大学で学びながら経営の勉強をするという、いま以上に忙しい日々が待ち受けている。
(君が寛容なのはお父さんの影響が大きいんだろうね。お母さんもきっと穏やかで優しい人だったんだろうなぁ……)
最低でも二年以上は帰ってこないとのことで、『一緒にこないか』と誘われているけれど、決めかねているというのがわたしの現状だった。
(…………本当は離れたくないけど、わたしもいつまでもこの調子じゃだめだし、自立するいい機会なんじゃないかなぁ……)
今年のクリスマスプレゼントも決めきれていないし、待たせてしまってばかりで申し訳ない限りだ。
「お父さん、素敵だね。でも、広いと確かにお掃除も大変だね」
「掃除は気分転換にぴったりだからいいんだけど、時間ないときはざっとしかできなくて気になるな。やっぱり、気になるのは視覚的だったり感覚的な部分というか……。俺んちには足りないんだよね。なにかが決定的に」
形のいい眉をあっちこっち動かして唸る彼は、さながらハリウッドスターだ。
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