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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<XXII>
しおりを挟む「……わかった。じゃあ、先に浸からせてもらうね?」
なるべくこちらを見ないでほしかったけれど、はっきり拒否するほど嫌というわけではない。留めている箇所を押さえながら爪先をつけ、少しずつ身体を湯船に沈めていく。
「うん。入れたね。えらいえらい♡♡」
背中を向けてしまったあとも彼の視線はずっと感じていた。
「いまの君、お風呂嫌いな子どものこと見張ってるお父さんみたいだったね。見張ってなくてもちゃんと浸かるのに」
「あはは♡ 確かにそんな感じだったかも。あれでしょ。たぶん浸かってしばらく経ったあとに数数えさせて、『六十数えるまで出ちゃダメ』とか言うタイプ♡ ひとつひとつがめちゃくちゃゆっくりだから、実際には二分くらい浸かることになるみたいな♡」
恥ずかしさが怒りに転じてむくれていたけれど、快活な笑い声がすべて消し去ってくれた。
「もしかして、いまのって君の体験談?」
「よくわかったね♡」
「子どもも兄弟もいないのに解像度が高すぎるから、そうかなぁと思ったの」
「あはは♡ そういうことね?♡ でも、俺の場合は父さんじゃなくて母さんとの思い出だね。いまでこそ入浴時間は普通くらいだけど、前は烏の行水でさ。三十秒も浸かってないのにすぐ上がろうとして、羽交い絞めにされてたっけ。……懐かしいなぁ」
星空を閉じ込めたみたいな瞳が、湖面のようにゆらりと揺れた。最後に加えられたひと言の込められた郷愁と寂寥に、わたしまで視界が潤みそうになる。
「ちっちゃい頃はお風呂苦手だったって子、結構いそうだよね。わたしも早く出て絵本読んだりお絵描きしたりしたかったなぁ」
「そっかぁ♡ でも、俺たちの子どもならお風呂はたぶん好きなんじゃないかな?♡♡」
何気ないエピソードから話題を別の方向に持って行こうと考えたのは確かだけれど、さすがに話が飛躍しすぎではないだろうか。
「え……?♡♡」
「俺もバスタイムはリラックスできるから好きだし、きみもいまものすごく気持ちよさそうにしてるし、お風呂好きなんじゃないかなと思ったんだけど違った?♡ 子どもって親の好きなものに興味示すものだと思うし、自然と好きになりそうじゃない?♡」
聞き間違いか言い間違いかと思ったけれど、訂正は入らない。
(びっくりしたぁ……。『俺たちの子ども』に比べたら『わたしのはじめて』なんて全然大胆でもなんでも…………わたしにしてみたらかなり大胆だったけど……!!)
ぎょっとしてしまったし、恥ずかしいと感じてしまったけれど、無邪気な笑顔からは下心なんて微塵も感じられない。結婚を視野に入れてくれているとわかって、嬉しさがじわじわと込み上げてきた。
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