三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
168 / 489
HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XXXIX>

しおりを挟む

「お肌によくないのはわたしも知ってるよ? でも、洗ってる感じしないとほんとに綺麗になってるよごれおちてるのかなって心配になっちゃうし、痒いし……」

 わたしは結構あかすりやピーリングといった古い角質を取り除くタイプの美容法が好きで、逆に化粧水だ美容液だを塗る加算方式のケアは疎かになりがち……というよりもサボりがちだった。

 彼に話したことはまだなかったような気もするが、いまの言い方でなんとなく伝わったのではないかと思うし、下手に言い訳して火に油を注ぎたくもない。そう考えて、正直に話してみたものの――――。

「痒いのは乾燥してるからじゃないの? きみ、毎日ちゃんと保湿してる?」

 触れられなければいいなと思っていたのに耳に痛い指摘がなされ、鏡のなかの自分がぎくっとした。わたしは前からこんなに顔に出やすい性質たちだっただろうか。

「………………顔してる」

 ちゃんとしていると答えかけてその答えを引っ込めたのは、あっさり見破られてしまうのが目に見えていたから。

「はいはい、OK。いまので大体わかった。ってことだね?」

 答えるまでに間が空いてしまったことや歯切れの悪さなどから露見してしまったのだろう。淡々と詰めてくる彼が若干怖い。

「冬はちゃんとしてるもん。ボディミルク塗って」

「うん。だからさ、『それを一年通してやろうね』って俺は言ってるんだよ。肌質とかの関係もあるし、使うものは季節で変えたほうがいいと思うけど、とりあえずは前シーズンの残りとか使えばいいから。ね? いまどんなの使ったらいいかわからないって言うなら、今度一緒に見に行くしさ」

 親切心からの申し出だという可能性も十分ありえるけれど、彼はちゃっかりデートの約束をまたひとつ増やしてきた。

「これからは気を付けたい……」

 笑いを堪えるのに必死で細部にまで意識が向かなかった。
 
「『気を付け“”』?」

 彼は言葉尻を捉えてわざとらしく復唱してきた。いちいち細かいし少しめんどくさいと思ってしまうけれど、『好き』の前に欠点はあまりに無力だ。

「『気を付け“”!』…………けど、君はそもそもどうしてボディタオル使わなくなったの? お…………元から使わない派だった?」

 『お母さんが使わない人だった?』と尋ねる寸前で軌道修正したけれど、勘付かせてしまったかもしれない。

「いや、何年か前までは使ってたよ。君と同じような理由で。でも、買い替えのタイミングでなかなかよさそうなのに出会えなくて、手で洗ってみたら意外といけてさ。あとで調べたら、ボディタオルが肌によくないってことと肌の痒みが気になる原因に行き着いた……って感じ」

「なるほど……。『慣れるまで洗った感じしない』とかはなかった?」

「俺はわりと平気だったけど、そのへんは個人差ありそうだね。きみも試してみて、気にならなそうなら手洗いにシフトしたら?」

 あまり譲歩感のない譲歩だ。彼はどうにかしてわたしを味方に引き入れようとしているらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...