三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XLVI>

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「あぁ、なるほど♡♡ あったね、そういう話♡ そのあと、ふたりのやりとりを見てた欲張りな木こりがわざと斧落とすんだけど、嘘吐いたから自分の斧も没収されちゃった……みたいなオチついてたと思うんだけど、違ったっけ?」

 内容は少しも色っぽくないのに、バスルームならではの反響エコーがかかった声で語りかけられるだけで邪な気持ちが湧き上がってきてしまう。

「そんなだったっけ? わたしはさっき言ったところまでしか覚えてないなぁ。でも、ただのいい話だったらここまで語り継がれてなさそうだし、きっとそうなんじゃない? 日本昔話にもよく出てくるよね、欲張りなおじいさんとか隣の家の人とか」

「ね! 子どもたちにわかりやすく説明するためなんだろうけど、やっぱり正直がいちばんだよね」

「うん。……わたしも君を見習って頑張らないと。思ってるだけで言えてないこといっぱいあるし、思ってるのと全然違うこと言っちゃったりもするし……」 

「きみがどんなふうに思ってるのかもちろんきみの言葉で聞けたら嬉しいけど、ちょっとずつでいいからね♡♡ もし言葉にするのが難しかったら、いましてくれてるみたいに行動にしてくれてもいいし♡♡ きみから凭れかかってくれるとは思ってなかったな♡ 嬉しい誤算って感じ♡♡」

 鼻歌でも歌い出しそうなほど浮かれた声だ。

「…………なんでもしていい?」

「うん♡♡ ちゅーでもぎゅーでもでも、きみがしたいなと思ったことを好きなようにしてくれたら、俺はそれがいちばん幸せかなぁ♡♡」

 彼は『ちゅー』のときにキツネに見立てた手を触れ合わせ、『ぎゅー』のときにはその手をぱっと開いて固く握ってみせた。
 
「ありがとう。でもね、できればどっちもできるようになりたいと思ってるの。言葉でも行動でも」

 身体を洗って戻ってきてから、何度君と見つめ合って唇を――抱擁を交わしたい衝動に駆られたことか。
 
「でも、それときみのさっきの答えがどう繋がるのかな?♡ 『俺』って答えちゃうと、俺ごと要求してるみたいになっちゃうから言えなかったってこと?♡♡ ……これはちょっと違うか。それだといつもとおんなじで『恥ずかしい』だけだ。『金の斧』の内容を踏まえて考えるなら……♡ 両方ゲットするために、あえて控えめに聞こえるほうを答えたってことかな?♡♡」

「…………ううん。どっちも違うよ。いつもきみにどきどきさせられてばっかりなのが悔しくて、少し意地悪したくなっただけ。君のことは好きだし大好きだし……♡ 大好きって言ってもほんとは足りないくらいなのに、素直じゃなくてごめんね。素直じゃないのは嘘吐きと同じくらい悪いことだってわかってるのになぁ……」 
 
 情けない自分と、そんな自分をあたたかく包んでくれる彼の優しさで鼻の奥がつんとした。
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