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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<LIV>
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しかし、ふらついたり、意識が遠くなったりということはない。
それなのに、彼は限りなくシンメトリーに近い美貌を思いっきり歪めている。視線の先にいるわたしを心底案じているといった具合のその表情の理由は一体なんなのか。
「きみ…………泣いてない!?」
彼はばしゃんっと大きく水を跳ね上げながら、がばっと掴みかかってきた。――といっても、間近で顔を見ようとしたはずみで掴みかかってしまったというだけだろうということは説明されずともわかった。
「……ほ、ほんとだ!? ごめんね、涙腺おかしくて」
身体を後ろに傾けて眩しすぎる美貌から距離を取りつつ頬に手を当てると、ちょうど熱い液体が流れ落ちていくところだった。
彼が水面から腕を出した際に跳ねたお湯がわたしの顔にかかることはなかったから、いまこの手に触れているものはこの目から溢れた涙に違いない。
「謝ることないって♡♡ 俺のこと心配してくれたんでしょ?♡ こっちこそ湿っぽい話してごめん……なんて言い出しちゃったら謝罪合戦始まっちゃうから、やめとこっか。ほんとにありがとね♡ でも、あんまり擦るとかわいいおめめが腫れぼったくなっちゃうから、ほどほどにね?」
びっくりして目をごしごししていたら、控えめに注意喚起がなされた。
「あの頃の俺に教えてあげたいな♡ 『十年も経たないうちに優しくて可愛くて理想以上の彼女がそばにいてくれるようになるんだよ♡♡ だから、いまはつらいと思うけど未来を悲観しないで』って♡♡」
前向きな彼らしい言葉に触発され、次から次へと涙が零れ落ちてくる。一度泣き始めてしまうと、涙が引いてくれるまで時間がかかる体質を恨めしく感じた。
「でも…………」
「…………大丈夫だよ、俺はきみがいてくれるおかげでもう全然寂しくなんてないんだから♡♡ 普段からいっぱい呼びつけちゃってごめんね?」
彼はなぜか大きく喉仏を上下させ、頬を上気させている。心なしか呼吸も荒い。
「ううん。わたしだっておうち帰ってもひとりだから、呼んでもらえて嬉しいよ。自分ちより寛いじゃってる気するけど」
そろそろお湯から上がったほうがいいのかもしれないと思いつつ、まだ彼とこうしていたくて普通に返答した。
「ほんと?♡ じゃあ、方向性は間違ってないんだね♡♡」
「方向性……?」
「『きみがいないと俺の理想の家は完成しない』って言ったでしょ♡ だから、きみに合わせて決めてるんだよ。っていっても、想像じゃ限界があるから、きみがうちにいるときに『ここはこういう感じがいいな』ってイメージ膨らませてるの」
両手を合わせて語る彼はわたしよりずっと愛らしい。
「ドールハウスみたいなものだよ。きみも昔、遊んだことあるんじゃない? ああいうのはお人形さん抜きで楽しむ人もいるとは思うけど、かわいいお人形さんに合わせて作っていくものでしょ?♡♡ 俺のしてるのはその現実バージョン♡♡」
「…………『わたしがいない』ことを除いても、まだ完成には遠い?」
彼の脳内にあるビジョンを除き見できればいいのに。すでに手直しの必要がなさそうな彼の家の内装を思い浮かべながら問いかけた。
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