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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<LX>
しおりを挟む「…………そ、そう? 毎晩一緒に入ってたら、さすがに慣れてくるんじゃない? 慣れるというか飽きるというか? あはは……」
自分で言い出したくせに途端に悲しくなって、眉が八の字になったのがわかった。声だって揺れてしまって、考えていることが筒抜けだ。
(君の前でだけはうまく取り繕えないのはなんでかなぁ……。平気なふりは唯一の取り柄だったはずなのに、笑顔の作り方がわからなくなる。……君といるときだけは、笑顔って作るものじゃなくて自然になってるものだからかな)
「………………」
察して慰めてほしいみたいで浅ましくて、自分で自分が嫌になる。
「じゃあさ、きみは俺とキスするとき、もう全然平気? ドキドキしなくなっちゃった?」
彼はわたしよりひと回りかそれ以上大きい手で固まった頬を包んだ。
(……懐かしい。懐かしいって言えるほど前じゃないけど、前はこんな感じで『キスするよ』って合図してくれてたっけ……♡)
手のひらの温度が思うように動かなくなった表情筋を少しずつほぐし、一文字に結んでいた唇が緩む。
呼び起こされたのは何ヶ月も前の記憶だ。いまでは不意打ちのキスも増えたけれど、付き合い始めたばかりの頃、彼は唇を重ねる前に『キスするね?』と毎回律儀に報告してくれていた。報告というより『キスしていい?』という意思確認だったかもしれない。というか、きっとそうだ。
(『していい?』って確認してくれて助かってたはずなのに、『キスのたびに訊かれるの恥ずかしいから、したいときにしていいよ』なんて言っちゃって……。そしたら『じゃあ、これからは訊くんじゃなくて合図しよっか♡♡ 俺がキスしたいなって思ったときは君のかわいいほっぺ包むの♡ もし気分じゃなかったら、する前に首横に振って教えて?♡ そしたらなんにもしないから』って……♡)
当時のことを思うと、あたたかいものが胸に満ちていった。
「ううん! 全然平気じゃない!!」
「あはは♡ そんな慌てて否定しなくても♡♡」
(慌てて否定しちゃったのは、君が寂しそうな顔したからなんだけどなぁ♡ 勘はものすごくいいはずなのに、自分のことになるとめちゃくちゃ鈍くなっちゃってほんとかわいい…………♡)
「……ごめんね。そのおててちょっとどけて……♡♡」
口元を隠していた手首を掴まれたまま、わたしが知っているなかで最も美しい顔が接近してくる。衝突予測まで三、二、一。緩みに緩んで名状しがたい形状になっていた唇は、ものの一瞬で奪われてしまった。
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