202 / 489
HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<LXXIII>
しおりを挟む「…………着替えのこと忘れてた!」
辿り着いた答えを言葉にするために開いた口を手で覆った。
わたしは濡れた制服を洗うことと冷えた身体をあたためることを優先するあまり、着替えの用意をしなければならないということをすっかり忘れてしまっていた。
「ごめんね、あっちで髪乾かしながら待っててもらえる? タオルは……これ使って。さっきのと同じサイズだから!」
乾いたタオルを身体に巻き付けたあと、彼にも急いでヘアドライ用のタオルを渡し、その手で洗面所を指した。ドライヤーは見える位置に置いてあるので問題ないだろう。念のため胸元を押さえ、早足でその場をあとにした。
「全然いいよ。ゆっくりで♡ 俺、夏とかパンイチで寝てるし♡」
「パ…………!?」
しかし、後ろから聞こえてきた声に思わず足を止め、振り返ってしまった。――ザ・優等生な彼にはミスマッチなワードが含まれていたせいだ。
「あぁ♡♡ もしきみと夏に寝ることがあったらちゃんと服着るから♡」
彼はちょうど腰にタオルを巻き終えたところだった。引き締まった身体を遠目に見て速まった鼓動も、ここまで離れていれば伝わりっこないのがせめてもの救いだ。
「……うん、ありがとう……?」
首を傾げながら礼を述べたら、彼が肩を揺らして笑い出した。
「どういたしまして――――って、これ以上引き留めたら、きみが風邪引いちゃいそうだ。行って行って♡ 俺はありがたく髪乾かして待たせてもらうから♡♡」
明るく送り出され、任務遂行のために目的地を目指した。
「おまたせ……!」
彼の待つ洗面所に戻ることができたのは数分後のことだった。
「お父さん、君より小柄だから丈が合いそうなの見つけてくるのが大変で、思ったより時間掛かっちゃった。たぶんこのあたりだったら短すぎるってこともないんじゃないかと思うけど、君はどれが…………わぁっ!」
説明もしなければならないけれど、それ以上に早く渡さなければと思うと気が急いて、あと少しのところで転倒してしまった。もちろんそこには障害物などなにもない。
「……っと。結構派手に転んだみたいだけど、大丈夫?」
覚悟していた衝撃はいつまでも訪れず、代わりに持ってきた着替え一式ごと優しい腕に抱き留められた。
「だいじょう…………ぶ……だけど、違う意味で大丈夫じゃない…………かも!」
――――はいいけれど、小走りできたせいで、助けを借りても勢いを殺しきれなかったらしい。意図せずして彼を押し倒す形になってしまった。際限なく湧き出す羞恥心のせいで全身がかっかする。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる