三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・レイン・トーク

アフター・レイン・トーク<Ⅲ>

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「すごい……! 窓華ちゃんってどこに行っても窓華ちゃんだよね」

「それは誰だってそうじゃない? 場所が変わっただけで人格まで変わったら怖いわよ」

 窓華ちゃんは歓声を受け流したけれど、まんざらでもなさそうににやにやしている。

「それはそうかもしれないけど、『その場でぼんやり祈る』みたいなふわっとした感じじゃなくて、神社に願掛けしてくれてたなんて思わなかったの。お出掛け中も気にしててくれて本当にありがとう。わたしの分のお礼も戸田くんに伝えておいてもらっていいかな? 本当は直接言うべきだと思うけど、なかなか顔合わせる機会なくて」
 
 窓華ちゃんの恋人は戸田くんといって、彼女にぴったりなかっこいい男の子だ。

(黙ってたらクールな感じなのに、恐竜とか未確認生物UMAとかが大好きな……。窓華ちゃんは全然興味ないらしいけど、見た目と中身のギャップ以上に好きなものの話してるときの生き生きしてる戸田くんが大好きって言ってたなぁ。素手でセミ捕まえたときはぎょっとしたって言ってたし、そのあと窓華ちゃん立ち合いで十回くらい念入りに手洗わせたらしいけど)
 
 長身かつ美形のふたりが並んでいるとモデルさんのようで、街を歩くと思わず振り返ってしまう人や足を止めてしまう人も後を絶たない。

(『窓』と『戸』ってところも対になってるみたいで憧れちゃうよね。彼とわたしはそういう感じの共通点ないし、羨ましいな)

「もちろん伝えておくわ。……あ。顔合わせるで思い出した。これ、そのとき買ったお守りなんだけど、あんたにあげる。毎日顔合わせてたくせに渡し忘れてたわ。ずっと持ち歩いてたのに……。袋しわしわになっちゃってごめんなさいね。たぶん中身は大丈夫だと思うけど、一応確認してもらえる?」

 窓華ちゃんはその言葉どおり少し皺ができてボリュームダウンしている包みをテーブルの上に置いた。多少の雨には耐えられる素材の袋のなかには、袋がふたつ入っていた。

「お土産までもらっちゃっていいの? 祈ってくれただけで十分すぎるくらいなんだけど……」

「ダメなはずないじゃない! あんた、会長と少し遠出したらいっつも私にお土産買ってきてくれるでしょ。これはそのお返しみたいなものよ。私にはかわいすぎるデザインだし、受け取ってもらえないと困るわ」

「かわいいデザインだったら、わたしより絶対窓華ちゃんのほうが似合うと思うけどなぁ……。でも、窓華ちゃんは戸田くんとラブラブだし、お守りとか神様の力なんて必要ないもんね?♡」

 少し時間が経って剥がしにくくなったテープを慎重に剥がし、袋の中身を覗き込む。小さいほうの袋だ。

「……あ、ほんとにすっごくかわいい! ありがとう、窓華ちゃん!」

 イメージしていたよりぷっくりしたお守りは、袋の色が透けておそらく本来よりも桃色が濃くなっているだろう。
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