三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・レイン・トーク

アフター・レイン・トーク<Ⅴ>

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「あぁ……。あんたはそういう子だったわね…………」

 窓華ちゃんはため息と一緒にがくっと項垂れた。

「え? 普通のカップルってそんなにしょっちゅう一緒にお風呂入るものなの?」

 実はあの日からずっと彼女に訊きたくてむずむずしていたのが、一般的なカップルの事情だった。この機を逃すまいと軽く身を乗り出した。

「人それぞれじゃないかと思うけど。…………あぁ、によっても変わってきそうよね。あんたたち……というか、会長なんてお風呂だけでも一緒に入りたいと思ってそう。その日するとかしないとかに関係なく」

「えっ!?」 

「でも……待って。究極的には入るとか入らないとかじゃない気がしてきたわ。一緒に入らなくても、お風呂上がりのあんたを甲斐甲斐しくケアしてる姿が目に浮かぶかも」

 窓華ちゃんはそう言って、再びストローに口をつけた。すでに半分以下になっているわたしのアイスミルクティーに対し、彼女のアイスティーは少しも減っていないように見えた。

「確かにわたしはお風呂上がったあと『気持ちよかったなぁ』って感じでぼーっとしちゃうけど!」

「…………ぼーっと、って。そんなことしてたら風邪引いちゃうじゃない。会長じゃなくてもあんたの世話焼いちゃいそうね。私もその場にいたら自分のことそっちのけであんたの面倒見ちゃいそう」 

(……お風呂上がりのケアってなにがあるかな。やっぱり保湿メイン? この前『顔だけじゃなくて、全身しっかり保湿しなよ』って注意されちゃったし、もっと関係が進んだらボディミルクとか塗りたくられちゃったり……?)

 窓華ちゃんに返事するより先に、思考が暴走し始めてしまう。所構わず妄想の世界に飛んでしまうのは、いくつになっても治らない悪癖だ。この先も一生付き合っていきたいのは大好きな彼だけなのに――――。

「……どうしたの? 固まっちゃって」
 
 窓華ちゃんが心配そうに首を傾けた。テーブルを挟んで対面しているはずなのに、少し距離が縮まっただけでどぎまぎしてしまう。
 
 どうしてわたしの周りの美人――窓華ちゃんと彼のことだ――は安易に顔を近付けてくるのだろう。ふたりとも自分の美貌が持つ破壊力を忘れているときがある。

「なんでわかるの!?」

 彼らにはもうひとつ困った共通点があった。――――恐るべき勘のよさだ。
  
「わかるってなにがよ? 会長、あんたのいつも楽しそうにあんたの世話焼いてるから。あと、よく頭撫でてるから――たぶんあんたの髪が好きなんじゃないかと思っただけよ。もし髪乾かしてる途中でも、うまいこと言いくるめてドライヤー奪ってきそうじゃない?」

 窓華ちゃんは優美に微笑んだ。
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