三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・レイン・トーク

アフター・レイン・トーク<Ⅶ>

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(ベッドあるし、やる気満々みたいに思われちゃったらやだなぁと思ってリビングにしか通してないけど、そういうの気にしないで自分の部屋に案内したほうがよかったのかなぁ。やる気あるのは誤解じゃないわけだし。彼が初彼氏ってわけでもないのに、どうしてこう恋愛偏差値が低いの……!! 学校の勉強のほうがずっと簡単……というか、きっと今時の小中学生のほうがわたしよりずっと恋愛上手だよ!)

 華奢なフォークに乗ったケーキのひとかけの、両想いだと確信できる両片想いの甘酸っぱい段階から恋愛初期の浮かれた気分をまるごと写し取ったような色も、いまは先ほどよりくすんで見える。断面から露出したベリー系の赤も、情熱というより傷口から滲んだ血の色を思わせた。

「でも、そこまでしておいて手は出してこないっていうのが会長の会長たる所以よねぇ……。私もあんたが大切にされてること自体は本当に嬉しいけど、あんたと会長で認識の相違がありそうなことだけ引っ掛かってるの」

 くっきり縁取られた唇が皮肉そうに歪む。

「窓華ちゃんもそう思う!? わたしもさすがにもうちょっと進展するんじゃないかなって期待してたんだけどなぁ。最後までは無理だろうなとは思ってたよ? でも、それにしたって…………!」

「荒れてるわねぇ。さっきは『お風呂入れただけで十分』みたいなこと言ってたのに」

「窓華ちゃんも『らしくない』とか『意外』とか言うの?」

 誰よりもわたしの側に立ってくれる彼女にも噛み付いてしまうなんて。いまのわたしは自分でも全然いいと思えない。――元から低い自己肯定感と自己評価が下降していくのを止められない。

(泣きそう……。なんですぐ涙出てきちゃうんだろう。せめて人前では泣かないようにって気を付けてるのに、これも『つもり』で本当は全然できてないのかなぁ。……本当になにからなにまでだめだめなんだな……)

「『らしくない』とは言わないわよ。相談だったら散々受けてきたもの。……でも、意外だとは思うわ。むしろあんたは『したくないんだけど、どうやって断ったらいい?』って感じだったじゃない。あくまで会長と付き合うまでのあんたのイメージだけど、昔の話聞く限りそこまで外れてはいないはずよ。一体どういう心境の変化?」

「…………彼は前までの人たちとは違うの。触れられるのが嫌じゃない……だけじゃなくて、もっと触ってほしいって思わせてくれるし。……彼がわたしにはもったいないくらいいい人なのもそうだけど、わたしも違うの。気持ちの大きさが全然違うんだと思う。『押し切られて仕方なく付き合ってる』んじゃなくて、『ただ好きで大好きで、そばにいさせてもらってる』感じ……。彼がわたしの初恋の人なのかもしれないって思っちゃうくらい」

 言葉を重ねるごとに視界は滲みに滲んで、絶世の美女もとびきりかわいいスイーツも渾然一体となって、耳の奥にはやけに水っぽい声の残響がとどまっていた。
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