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アフター・レイン・トーク
アフター・レイン・トーク<XVII>
しおりを挟む(えぇっと、『わたしが考えたようにしていい』ってことでいいのかな? ……最終的には自分でなんとかするしかないけど、アドリブ力にも自信ないんだよなぁ……)
「どう? できそう? ――あんたならできるわよね? ポテンシャルは十分だもの。あとは自信を持って勇気を出すだけよ。ちゃちゃっと覚悟決めて頑張んなさい」
返事を返せないでいると、身を乗り出した彼女が畳み掛けてきた。
「うぅん……? そうなんだけど、そうじゃないというか…………! すべきことはわかってるんだけど、なんだろう? そこに行くまでの流れをもう少し細かくレクチャーしてほしいというか……?」
「『そこに行くまでの流れ』?」
「だって、いきなりそこ触るわけにもいかないよね? 絶対にだめってことはないと思うけど、もっとムード作っていい雰囲気になってからのほうがいいと思うし……!!」
言い終わるが早いか、まだ一度も触れたことのない彼のソレを手のひらでそっと包む妄想がスタートを切ってしまった。
(カサカサの手で触れるわけにもいかないし、ハンドケアも念入りにしておかないと。わかってたけど、することが多い……!!)
あの日から彼に言われたとおりに全身の保湿ケアを欠かさないように頑張っているけれど、日に何度も洗う手はわりと盲点で、気付くとささくれが目立ったり皮が一部剥けたりしてしまっていた。
「あぁ、なんだ。そういうことだったのね。…………というか、そこまでわかってるなら、私のアドバイスなんて必要ないんじゃないか思うけど、そんなこともないのかしら?♡」
彼女は長い睫毛を揺らして微笑んだ。その姿は愛くるしいシマリスたちが憧れるナイトクラブの歌姫のようだった。
「えぇっ!? 必要だよ!? わたしのは想像だもん。経験者じゃないとわからないこともあるでしょ?」
テーブルに手をついて、アドバイスを出し惜しみ――本当は出し惜しみしているわけではないことはわかっているけれど――する彼女に頭を下げるための予備動作に入る。
バンジージャンプをするときに『もう少し待って。落ち着いたら自分で飛ぶから』と伝えてあるにもかかわらず満面の笑みのインストラクターに背中を押された人は、いまのわたしのような心境になってしまうに違いない。
「うーん……。そうは言ってもねぇ。私は会長みたいな王子様タイプと付き合ったこともないし、会長の考えって読みにくいのよねぇ……。あの人って、常時ウェルカム感出しておきながら実際懐に入れる人はきっちり厳選してそうだし、誰が相手でも本音で接してるように見えて実はそうでもない……みたいなところもありそうだし、底が知れないって言えばいいのかしら」
彼女の講評を聞きながら、大好きな彼の笑顔を思い浮かべた。
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