三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・レイン・トーク

アフター・レイン・トーク<XXI>

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「花で例えるなら、スズランってところかしら。香りもクリーンでぴったり。前に使ってた香水もそんな感じだったわよね。すごく似合ってたわ。もちろんいまの甘い香りも似合ってるけどね。――でも、スズランはああ見えて毒があるから、あんたのイメージからは少し遠ざかるかも。他に白くて可憐な花っていうと…………カスミソウのほうが合ってそうね。英名もかわいいし」

(カスミソウの英名ってなんだっけ?)

 その名のとおり鈴のようになっているかわいらしい花と、淡雪のごとくふんわりした花を思い浮かべる。

「ありがとう。どっちも好きだから嬉しい! 窓華ちゃんは――オレンジの百合とか紫の薔薇とかってイメージだなぁ。でも、花びらが大きくて華やかで色も濃いめのお花全般似合いそうだね?」
 
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。……でも、あんたがいま言ってくれたイメージって私が前々から持ってたものじゃないと思うのよね。私が挙げたあんたのイメージと違って」

「どういうこと?」
 
「私はなりたい自分を演出してるだけ。あんたがそれをうまくキャッチしてくれてるってこと。他人から押し付けられたイメージのままでいてやる必要なんてどこにもないのよ。そのままの自分が好きだったり、飾らない姿を愛してもらえたりするのだって素敵だし、すごく幸せなことだけど……。いつも同じ自分、決まりきったイメージでいるのって、退屈だし窮屈だと思わない?」

 髪を掻き上げた彼女のいい女っぷりはとどまるところを知らない。風に乗ってジャスミンとなにかが混ざった香りが届く。

「うーん? ……退屈で窮屈かぁ」

 そういえば、同名のプリンセスもお城での退屈で窮屈な暮らしに飽いていた。

「あんまりそういうふうに考えたことない? ……まぁ、会長もそのまんまのあんたが好きみたいだし、あんたも特に不満がないって言うなら無理にイメチェンする必要もないけど。私が個人的に見てみたいのよね。クラスのみんなも気付かないくらいセクシーに着飾ったあんたのこと」

「誰も得しなくない……?」

「するわ。私が見たいって言ってるんだから。あと、私以上に会長が喜ぶのは間違いないわね。ふたりもいれば、十分チャレンジする価値はあると思わない?」
 
 目を細めた彼女はとても色っぽくて、曖昧に頷いてしまった。
 
「キュートも作れるけど、セクシーだって作れるのよ? なれないものなんてないんだから、服とメイクと振る舞いでその日なりたい自分を演出すればいいの。女優にでもなったつもりでね。慣れるまでは恥ずかしいかもしれないけど、慣れれば案外楽しいものよ」 

「キュートもセクシーも作るもの…………」

「そう。あんたの場合、素材が最高にいいんだから悪くなりようがないの」

 わたしがその教えを身体に染み込ませるように復唱したのとほぼ同時に、彼女はメニュー表を広げた。
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