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アフター・レイン・トーク
アフター・レイン・トーク<XXIII>
しおりを挟むこうなった彼女が頑として口を割らない人だということはわかっているので、諦めてメニューと向き合った。
「……あ! 決めた。これにする」
甘いものを我慢したら、あとで暴走してしまいそうだ。定番で外れのなさそうなカフェラテにしようかと考えていたけれど、その左下にあったキャラメルハニーティーなるメニューが目に留まった。
「さっきからわたしばっかり話しちゃってるよね? 窓華ちゃんのお話も聞きたいな♡ この前のデートの様子、もっと詳しく教えて?♡ 白亜紀展楽しかった?」
注文は窓華ちゃんがまとめてしてくれた。話もちょうどひと区切りついたところだったので、店員さんが去ったあとは彼女の惚気を聞く態勢に入った。
「ええ。あんたが期待してるようなことはなかったけど――――」
窓華ちゃんは抑えめのトーンで語り始めたけれど、だんだんと普段のトーンに近付いてきている。
「楽しめたみたいでよかった♡ 最後のほうはちょっと大人すぎてどきどきしちゃったけど……!」
スマートフォンを操作してSNSにも投稿していない写真(顔を寄せてドアップで映っているにもかかわらず、ふたりとも美形が崩れることもなく、お肌もぴかぴかだった)まで見せてくれた彼女は、恋する乙女の顔をしていた。
「…………あんたも変わってるわよねぇ。他人の惚気聞くのが好きなんて」
「え、そう? みんな恋のお話は好きでしょ? それとなんにも変わらないと思うけどなぁ」
「うーん……。確かに定番の話題よね。だけど、恋バナにもいろいろあるじゃない。彼氏や旦那の愚痴だって恋バナといえば恋バナだし、『誰と誰が別れた』みたいなゴシップ色の強い話だってそうだし、男の前では話せないようなエグめの下ネタだって恋バナと言えなくもないわ。あんたみたいに惚気聞かされてもにこにこして楽しそうにしてくれる友達、少なくとも私ははじめてよ。他人の幸福を喜べるのは才能ってこと」
彼女がスマートフォンを仕舞ったとき、注文品が届けられた。目の前に置かれたグラスとカップを見て、お互いに頷き合う。会話は一時中断だ。
「喉カラカラだったから一気に減っちゃった」
窓華ちゃんは流れるようにストローを挿し、グラスの中身を吸い上げた。
「いただきます」
わたしはホットで注文したので、カップの温度から熱さを推測しつつ、表面に何度か息を吹きかけて口をつけた。
「! おいしい……!!」
口をつける直前に流れ込んできた香りほど甘くなく、僅差でほろ苦さの勝る味わいは、心を安らげてくれた。
「あんたのはキャラメルハニーティー……だったかしら。ありそうで滅多に見ない組み合わせね? 発音するときもちょっと擽ったかったわ。あんたにはぴったりだけど、私には甘すぎるもの」
思わず窓華ちゃんに感想を漏らしたら、彼女は持ったままのストローで浮かんできたレモンを再び沈めた。
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