三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<Ⅱ>

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(周りに誰もいないって確認できたから、そうしてるんだろうけど……♡ 人前でのいちゃいちゃはわたしにはハードル高いって……!!♡ ここ住宅街なんだし、外に人がいなくても偶然窓辺に立ってる人がいないとも限らないし……!!)

 ここがせめて玄関を入ったところであれば、その胸に飛び込んでいたかもしれないけれど――――。伸ばしかけた両腕に滲んだ躊躇いを、彼の双眸が捉えていないはずはなかった。

「…………ねぇ、本当にどうしたの? いま遠慮したよね。それはまぁ、いつものことといえばいつものことだけど、さっきからぼーっとしてるし…………。もしかして具合悪い? それなら、無理しないでお部屋戻って寝て?」

 いつまでたっても返事しないのを不審に思った彼が、わたしの身体をそっと回転させ、背中を押して家のなかに戻そうとしてくる。

「デートは近いうちにまたすればいいし、今日はつきっきりで看病してあげるから。そしたら、寂しくないでしょ? それはそれでデートって言えなくもないんじゃないかと思うし。ね?」
 
 彼は基本的に勘のいいひとだが、心配性すぎて的外れな予想をすることもある。いまがまさにその状態だった。
 
(わりと普段からぼーっとしてると思うけどな、わたしは。ぼーっとしてるというか、彼の何倍もぼんやり生きてるって感じかな。見習いたい、その目的意識がはっきりしたところ……)

「……あ、だけど。看病するなら買ってきたいものもあるな。……でも、ここからなら、薬局行くよりうちにUターンして持ってきたほうが早いか? きみがパジャマかなにかに着替えてるあいだに取ってきちゃうよ。それならあんまり寂しくないし、着替えてるとこ見られないで済んで安心じゃない?」

 いつのまにか話はどんどん進んでいて、気付けば今日の予定も完全に変更される寸前だ。

「え。えっと、その…………」
 
「遠慮しないで、こういうときは思いっきり甘えなよ。具合悪いときって、いつもじゃありえないくらい心細いし、誰かにそばにいてほしいものだと思うしさ…………。ちょっとおでこ触らせて?」

 背後から手が伸びてきて、左手で額を覆われた。彼は右からわたしの顔色を窺っていた。いまのわたしたちは、彼がその気になればいつでもハグできる体勢だ。
 
「……ち、違う違う!! 昨日は疲れてすぐ寝ちゃったから、いつもより元気なくらいだよ!」

 ボディビルダーのようにいくつかポーズを決めてみたけれど、彼の眉間には皺が刻まれたまま。

「うーん……。信じてあげたいけど、きみは心配かけまいとして嘘吐くことがあるしなぁ。……ほんとにほんとに大丈夫?」

「平気だよ。熱だってないでしょ? ……君がおでこに触ってると思うとどきどきしちゃって、ここから体温上がってきちゃうかもしれないけど」

 暗に手をどけてくれるように頼んだら、彼はしぶしぶといった具合で息を吐いたのち、引き上げていった。

「確かに、いまのところ熱はないみたいだね。俺よりちょっと低いくらい。本当に体温上がってくるかどうか実験してみたい気はするけど、本当に熱出ちゃったらきみに申し訳ないし、やめておくよ」

 去り際に前髪を整えていくのが彼らしくて好きだと思った。
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