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アフター・アフター・レイン・トーク
アフター・アフター・レイン・トーク<XLI>
しおりを挟む不意打ちのキスを受けた彼の瞳は、状況を把握したあとも閉じられることはなかった。
セオリーに従って、わたしだけでも閉じておこうかと考えたけれど、どんなに霞もうといまは視界を閉じてはいけない気がした。どうしてもとどめておきたかったのだ。驚嘆が歓喜に移ろいゆくさまは、筆舌に尽くしがたく美しかったから。
(届くかどうかってことで頭いっぱいで、他のことなんにも考えてなかった……! 息苦しくなってきたけど、大きく吸うの恥ずかしいな……)
無駄に力の入った脚が震える。彼も腰に手を添えてくれたけれど長くは持たず、静かに踵を床につけた。
「もう1回熱烈にしてくれるとは思ってなかったなぁ♡♡ これってアンコールとかできる?♡」
背中を丸めた彼からは人差し指を立ててのリクエスト。
「1回くらいなら……♡」
ちゅっ、と軽く触れ、数秒で着地する。
(少し短すぎたかな? でも、いまのがわたしの精一杯で――――)
「隙あり♡♡」
任務が完了し、ほっとひと息ついた矢先のことだった。離れたばかりの唇がわたしの呼気を奪っていったのは。
「ん……っ!?♡」
「♡♡♡」
大きな瞳を仕舞った彼は、上下の唇を使って警戒を完全に解いていた唇を挟んだあと、隙間をぐるりと一周して咥内に侵入してきた。どれだけ慣れているのだろうと勘繰ってしまうほどの絶技だ。
ノーガードだった舌を食べられているような感覚に陶酔する。わずかに感じる甘さは本物か、錯覚か。舌同士も癒着してしまったように感じられ、『わたし』という個体の輪郭がぼやけ始めた。
(食べられて…………じゃなくて、貪られてる感じかも♡)
添えられた手も腰回りを這い回っている。そこから生まれる熱が、この先に待ち構えているめくるめく恍惚を予感させ、お腹の奥から蕩けてしまいそうになった。
(……もう立っていられない……♡)
――――それから、どのくらい長く唇を重ねていただろう。
「…………おっと。倒れるなら、後ろじゃなくて前にしてもらおうかな?♡♡」
元から彼に支えてもらって立っている感じではあったけれど、いよいよ踏ん張り方も忘れてしまい、後ろに倒れる寸前で彼に抱き寄せられた。
「ごめんなさい……!」
わたしの腰が抜けてしまっていなければ、もっと長く甘い時間を味わっていられたかもしれない。
「謝らなくていいけど、もっとしっかりしがみついてくれたら嬉しいなぁ♡♡」
「…………こんな感じ?」
恐る恐る背中の下のほうに抱き着いた。
「そうそう♡ ポッキーもおいしかったはずなんだけど、早く食べるのに夢中で味あんまりわからなかったね?♡♡ たぶん、いま口のなかが甘いのってポッキーじゃなくてきみのせいなんじゃないかな♡」
引っ掛かりの少ないシャツ越しに感じる体温は、いつも以上に高い気がした。
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