三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<LXX>

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「とりあえず…………」

 巧みなフライ返し使いでフレンチトーストをお皿に滑らせた彼は、バターを追加し、次のフレンチトーストをフライパンに載せた。卵液に漬かった食パンも残り少ない。

「これができたらおしまいだから、きみにお手伝いしてもらうことはもうないよ。ありがとうね♡♡ お疲れ様♡ 手伝わせちゃったけどお客さんなんだし、席着いてる?♡ 先に食べ始めちゃっててもいいよ?♡ お腹ぺこぺこみたいだし。こっちも出来上がり次第、すぐに持ってくからさ♡」

 しかし、それらの謎を解き明かす暇は与えられなかった。……というより、あまりに熱心に見ていたからか、空腹が限界を超えていると思われたようだ。
 
 彼は会話を強制的に終了させるかのごとく、てきぱきと新たに提案をしてきた。
 
「ありがと。……でも、君さえよければ、このままここでお料理してるところ見てたいなぁと思ってるんだけど…………だめ、かなぁ?」

 熱で溶かされるバターのどこか歓喜の滲んだ悲鳴に負けないように、少しだけ大きな声で頼んでみる。

「いいよいいよ♡ ダメなんて言うはずないでしょ♡ でも、近すぎると油が飛んできちゃうかもしれないから、もうちょっとだけ離れててね? きみのいるところは少し火に近すぎるよ。そんなところにいたら暑いだろうしさ」

 彼はわたしの身体の前に来るように左の腕を伸ばし、指の先を動かして『下がって』と言っているようだった。自分のことを棚に上げて、本当におかしなひとだ。

「心配性だなぁ。焼いてくれてる君のほうがずっと暑いでしょ?」

 わたしが十分下がったのを見た彼は、ようやく腕を下ろした。

「俺は慣れてるし、いいんだよ。だけど、きみが火傷しちゃうのなんて絶対嫌だもん! 痛い思いも熱い思いもさせたくないし、もし油がきみの綺麗なお肌に跳ねて火傷の痕なんて残っちゃったらと思うと…………。ダメダメダメ、絶っっっ対ダメ!!! 責任取る準備ならできてるけど、それとこれとは違うわけで……。と…………とにかく、きみは一生揚げ物なんてしなくていいからね! 念には念を入れて、揚げ焼きも俺の立ち合いなしでしちゃダメだから!!」

 青褪めていると思っていた顔はみるみるうちに紅潮していった。

「君って心配性っていうか……そこまで行くと過保護なんじゃ……?」 

「過保護にもなるよ! ……好きなんだ。大切なんだよ、本当に。きみのことが。危険なことから遠ざけるだけが愛情じゃないってわかってるし、俺の考える危険なこと全部避けようと思ったらきりがない。それでも、俺にできることはなんでもしてあげたいって思うんだよ……」

 彼は先ほどフライパンに載せた食パンをひっくり返した。さすがにはハートになっていなかったけれど、美しい焼き色だった。
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