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第一の試練
第一の試練<4>
しおりを挟む(めちゃくちゃ語るじゃん♡♡ 外でも俺のこと今みたいな感じで自慢してくれたら言うことなしなんだけど、俺との予定優先するだろうから機会自体当分来ないかな?♡♡)
暗闇の中でぼんやりとしたシルエット――こう言うと、まるで幽霊の目撃談みたいだけど――を追うのは流石に無理があったようで、長い爪が刺さりかけた。
でも、彼女の爪は日常動作もままならないレベルに長いわけでもなければ、角張った形だったり鋭利な形だったりするわけでもなかったから、怪我には繋がらなかった。
「……なるほどね?♡♡ 今の意見は今後の参考にさせてもらうよ♡」
「参考もなにも、千尋くんは元からそうだったでしょ……♡♡」
声から推測するしかないが、彼女はまだ眠そうだ。
すべての語尾(最悪、読点が来るタイミングでも伸ばしてくる子いるけど、全然可愛くないよね。聞いてるだけでストレス爆発しそうなんだけど、あれは一体なんなの?)を伸ばす口調は受け付けないが、彼女の最後に息の余韻が残る感じの喋り方は嫌いじゃない。というか大好き。
内容も語尾もスパッとしていて歯切れのいい、いつもの喋り方も好きだけど。
(もうちょっと寝かせてあげたほうがいいかな?♡ 俺も二度寝出来るし。…………いや、俺は眠くないから寝なくていいか。寝かしつけるだけで。カーテン少しだけ開けといて明るくなってきたら、寝顔が見れるようにセットして……♡)
彼女は赤ちゃんがするみたいに俺の手をごく弱い力で握ってくる。返事を急かしているのだろうか。
「俺と同じ呼び捨てきゅんきゅん勢の紗世ちゃんも、たまには俺のこと呼び捨てにしてくれる気になってきた?♡」
「私から呼び捨ては…………まだ当分出来ないかなあ……♡♡ 名前で呼ぶのだって、ほんとはまだちょっと恥ずかしいから……♡」
「恥ずかしいのに呼んでくれてるの?♡ 俺が喜ぶから?♡♡ 可愛いなあ、俺の彼女♡♡ でも、完全に切り替えようとしなくていいんだよ?♡ 二人のときだけ名前呼びにするとかさ♡ それで徐々に慣らしていけば♡」
「二人のときだけ呼び方変えるのって、なんか秘密の関係みたいでいいかも……♡♡」
「俺たちの関係は誰にも隠す必要ないけど、外では仲良しの兄弟や友達みたいにはしゃいでるのに、二人になったら昨日みたいな感じになっちゃうのとか、めちゃくちゃエロいよね♡♡」
「…………『恋人です』オーラ出しちゃダメ?♡♡」
「ダメじゃないよ♡♡ 外国暮らし長かったのかなって思われちゃうくらいベタベタしてくれて全然いい……♡」
「よかった……♡」
名前を呼び捨てにするのは躊躇うくせに、人前でもパーソナルスペース狭めな彼女への愛おしさが募ると同時に、落ち着きそうだった殺意が再び湧き上がってきた。もちろん彼女にではなく、真夜中に電話を掛けてきた『翠』という奴に対しての。
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