yours-夢の罪過-

第一の試練

第一の試練＜13＞

「改めて聞くけど、こいつは結局誰なの？　今はもうほんとにこの翠ミドリって奴とは何もないんだよな？　…………ああ、過去に色々あったとかは不問でいいよ。今、1ミリも関わりないなら別にそれでいい。……連絡先消し忘れてただけ？　面倒だから消さないのもわかるけど、いらなくなったらその都度消したほうが、かえって面倒じゃなかったりするよ？」

　画面を横から覗き込み、表示名を指した。
　
（ここからでも普通に字読める……って事は、覗き対策してないのか。混んでる電車とか乗ったら、自動的に周りの人に俺とのチャット自慢出来ちゃうね♡♡）

「ミドリとはほんとになんにもないよ。私も名前聞いて『誰だっけ？』ってなるくらい昔のセフレなのに、よく覚えてたね？」

「まあね。記憶力いいし、執念深いのもあって」

「そっか、そうだったね。千尋くんのほうが、私の元カレの名前覚えてたりして…………。でもね、今表示されてる名前、ミ・ド・リ・じゃなくてス・イ・だよ……！　だから、連絡先消すの忘れてるとかでもないの……。わかってくれた？」

「…………え？　確かにこの字は『スイ』とも読めるけど…………」

　俺を苛んでいた心臓を内側からちくちく刺されるような苛立ちは、一瞬にして止んだ。

「その場しのぎの嘘に聞こえる？　……そうだよね……。すぐに信じてもらえないのは、私のこれまでがめちゃくちゃだったせいだし、仕方ないけど――――。でも、今のは出まかせじゃないよ。その子の名前はス・イ・。ミ・ド・リ・じゃない。ついでに言っておくと、翠は女の子だから……！　もうひとつついでに言っておくけど、私は翠と違って同性と付き合ったりエッチしたりしたこともないから！！　もしまだ信じられないなら、これごと貸すからチャットの内容遡って見ていいよ？　翠が女の子って証明出来るような内容の話してるかは……私も覚えてないんだけど……」

「お――――、女の子だって！？？　こいつが！？」

　今世紀一間抜けな声を上げた気がするが、本当に間抜けなのは声ではなくて、俺の勘違いのほうだろう。

「そんなに驚く？　ていうか、今のはどこから見ても完璧な男装見たときのリアクションだよね？　……翠、確かに背は高いけど、男には見えないと思うよ？　一緒に写ってる写真あったかなあ。翠単体の写真……は絶対持ってないし。私たち、あんまり人と写真撮るほうじゃないから……。写真あっても、私が翠だっていう子が本当に翠だって証明は出来ないから、証拠にはならないけど」

　細工の施された爪はホーム画面に戻り、写真フォルダ――ではなく、ストレージサービスのアプリをタップした。