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第一の試練
第一の試練<35>
しおりを挟む「このまま――って♡♡ 『俺と腹上死したい』ってこと?♡」
浅く息を吸ったのち、独占欲の強すぎる男らしく、やりすぎなんじゃないかと思うくらい『俺と』の部分を強調して問い掛けた。
「うん、そうだよ?♡♡ 私は――独りでみじめに死んでいくなんて、耐えられない。私は――――ちひろくんとしにたいの♡♡ だって、この世で一番愛してる人と繋がったまま死ねるなんて、夢みたいだと思わない?♡♡ 首を吊ったり、締められたり。高いとこから落ちたり、落とされたり。刃物で切り刻まれたり、自分で自分刺したり。車の前に飛び出したり、車が突っ込んできたり。銃で撃たれたり、自分の頭蓋骨や心臓を撃ち抜いたり。病気とか怪我とか、老化とか――……。他にはなんだろう、喉に物詰まらせたりとか? よくある死因って、全部苦しそうで痛そうで、夢も救いもないけど、一番好きな人と一番幸せな状態で死ねるなら、それってもしかして、生きてるより幸せかもしれない……って私は思ってるんだけど、千尋くんはどう?♡♡ 私とこのまま死にたくなってこない?♡ …………私のこと、死ぬほど愛してくれてるんでしょ…………?♡♡」
思いつく限りの死因を挙げた彼女は、考えつく限り最も甘美で危険であろう心中の誘いを仕掛けた。
死因を羅列し始めたあたりから、声に一本芯が通ったのがはっきりわかった。
元より逃げるつもりもないが、荒唐無稽だろうがなんだろうが、確固たる意志を持った相手からの誘いには、同等の真剣さをもって返すべきだろう。
「……念の為訊くけど、死んだあとのことまで考えて発言してる?♡♡ 色んな人に見られることになると思うけど?♡♡」
顎の固定を解き、顎の下を擽ってやる。
「千尋くんは恥ずかしい?♡♡ 私とエッチしてるとこ、他の人に見られちゃうの…………♡」
彼女は首を左右に振り、もっと撫でろとせがんできた。
訳あって人間の姿を取った猫と愛し合っているかのような倒錯的な状況に、膣内に埋めたモノがわかりやすく反応を示す。
「――――なわけないじゃん♡♡ 大好きな彼女とエッチするのなんて、当たり前のことでしょ♡ しない人たちが変って言ってるわけじゃなくて、俺は恋愛感情と性欲が直で繋がっちゃってるタイプだからさ。……とにかく、俺たちが今してるようなことは、別に誰かに遠慮する必要があることでもないし、なんにも恥ずかしいことじゃないと思ってるよ♡♡ …………でも、エッチしてるときの紗世ちゃんのことは、誰にも見られたくない。見せたくない。俺と愛し合ってるときに紗世ちゃんのカラダとか、お顔とか、反応とか……紗世ちゃんのエッチで可愛いとこ全部が下品な男どものおかずとして消費されるのは、絶対に嫌だ。考えただけで、吐き気が止まらないね」
俺だけ知っていてほしかったカラダを、俺にだけ見せてほしかったカラダを、きつくきつく抱き締めた。
――――呼吸のために肺を膨らませることすら出来ないように。美しい肢体の、せめて前面は誰の目にも触れないように。
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