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第一の試練
第一の試練<41>
しおりを挟む「そこ、そんなに気になる?♡ ……というか、気にする?♡♡」
おそらく無意識であろう動きのサポートをするのは簡単だったが、もどかしそうな彼女を見ていたかったなんていう利己的な理由で、あと少しだけしたいようにさせておくことにした。
「…………変かなあ、やっぱり」
「いや、少し意外に思っただけだよ。変ではないけど、そういうの気にするのって圧倒的に男のほうが多い気がするから、多少変わってはいるのかもね?」
「しつこい……よね。ご――――」
「謝ろうとした?♡ 自分が間違ってたと思ったときに速攻で謝れるのはすごいことだけど、俺が答える前に謝るとか、そういうのはなしで行こう?♡ 紗世ちゃんが想像してる俺の気持ちと、本当の俺の気持ち。おんなじとは限らないじゃん」
「そ……っか……。そうだよね。謝らなきゃいけないって確定してないときに謝っちゃうのは、思い込みだし、押し付け…………だよね」
「わかってくれたならいいんだ。そんなに落ち込まないで? 俺は別に、前に同じ質問されてようがされてなかろうが構わないよ?♡♡ 何回同じこと訊かれても、ちゃんとその都度答えるし」
「…………ほんと? 『何回も同じ質問するなよ』って言わない…………?」
「言わないよ。質問って、『あなたに興味があります♡♡』って意思表示みたいなもんだろ。興味持ってくれて嬉しいよ、俺の性体験の詳細♡♡」
「教えてくれないの?♡」
「今から言うからせっつくなって♡」
待ちきれず誘惑に勤しむ細い腰を抱え、生まれつき後ろに倒れ気味な耳に手を添えた。
「え…………っ?♡♡」
容易く向きを変えた薄い耳は、頑固なようでいて素直な彼女の性格を反映しているようだと思った。
「中出しどころか、生挿れから未経験♡♡ 普通に考えて、相手の人生狂わせる可能性あること、そんな簡単に出来ないだろ。俺が特別真面目なんじゃないよ。みんなが異常なの。気軽にしすぎ、軽く考えすぎなんだって。……言っとくけど、この件に関してだけは、紗世ちゃんのしてきたことマジで理解出来ないし、フォローしたいとも思えないからね。相手が常に一人だけなら、まだ理解出来たかもしれないけど、そうじゃなかったわけだし。……女の子の気持ちは女の子にしかわかんないだろうし、紗世ちゃんの気持ちは紗世ちゃんにしかわかんないから、そこは否定しないけど…………。行動にまで移す必要があったかどうかは、今からでもよく考えてほしいなと思ってるよ。――――というか、それ以前の問題じゃないの? 『そういうのよくないよ』って注意してきた男は? 誰もいなかったわけ?」
「いないと思う。みんな喜んでたよ?」
「……喜んでもらえたら、それでいいのかよ?」
「うん♡ 私も好きでしてることだし、自分が好きでしてることで相手にも喜んでもらえたら、嬉しいよね?♡」
「それはそうだろうけど」
「千尋くんにも『中に出していいよ♡♡』って言ってきた女の子、いたんじゃないの?」
(…………紗世ちゃんとか紗世ちゃんとか、あとは紗世ちゃんとかね…………)
美容系アカウントの女の子たちの間で大流行していた『真実を映す鏡』とやらを突き付けてやりたい気持ちを堪えるためには、特大のため息をつく必要があった。
(俺が伝えたいこと、なんにも届いてなくないか? 『頑固なようで素直』じゃなくて、『素直そうで頑固』だったとは……)
前日のセットの名残を残した前髪は、人体から出てくるにしてはそこそこの強風を受けてもほとんど動かなかった。
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