yours-夢の罪過-

第一の試練

第一の試練＜44＞

「ちひろく……っ♡♡ それ……♡♡」

　後頭部の手が、髪を巻き込んで丸まった。足指も同じように丸まっているのだろうか。
　
　生憎と俺は世界で最も美しい顔から目が離せなくて、確かめられそうにないのだが。

「ん？♡ ……ああ、これ？♡ こういう風にされるの好き？♡♡ やっぱMなんだ♡♡ こんなの絶対苦しいし、きっついと思うんだけどな……っ♡♡」

　手のひらを当てているだけだったのを、きっちり五指を沿わせるように変えたら、女性らしいS字カーブが弓のごとくしなった。

（ほんとわっかりやすい♡♡ 横から見れないのが残念だよ……♡ 紗世ちゃんも乗り気だし、本当に撮っておけばよかったな♡♡ 寝顔も寝顔でアド高いから、起きる前からカメラ回して…………♡ 俺、紗世ちゃんが気持ちよさそうにしてるのがなにより嬉しいのかも♡）

「……ん……っ♡ ぅんっ♡♡ それも好き♡♡ だけど、今言ってくれた『二人占め』も♡♡ すっごくいいかも…………♡♡ 『独り占め』もいいし、みんなに自慢するのもいいけど、二人でいるときにあった幸せなこと、千尋くんと二人だけで独占出来るのって、上手く言えないけど……すごく、すっごくいい♡ 共有も出来るけど、独占も出来てる…………。なんだろう、なんていったらいいのかなあ？　両方のいいとこ取りしちゃえる感じ……」

「っははは♡♡ 『二人だけで独占』って……めっちゃくちゃ矛盾しまくってる気がするんだけど、これって日本語的にアリなのか？♡ いや、言い出したのは俺だけど♡♡」

「ほんと♡♡ 本家の『矛盾』にも負けないくらい、派手な矛盾起こしちゃってる♡ ……けど、そうとしか言えないよね？♡♡」

「まあ、確かにね？　もし今のに代わる表現があるとすれば――……」
　
「「『世界に二人だけ』？」」

　日が落ちる寸前、世界を照らす大いなる光の代役となる人工光が点灯する瞬間のように、パッと閃いたワードを口にする――と、やや病んだ毒性のある愛を吐き出す愛らしい口からも、まったく同じワードがポップアップした。

「おんなじこと、同時に思い付いて嬉しい♡♡」

　彼女の表情がぱぁっと明るくなったかと思うと、愛を象った唇が突撃してきた。

「『世界に二人だけ』、か。…………今のこの状態も、そんな感じしない？♡♡ 外はまだ暗くて、車が走ってる音は…………まあ、場所が場所だからそこそこしてるけど、都会に住み慣れてたら、環境音の一部でしょ。このくらい。田舎でいうところの、虫の声。……そのくらい身近なもの。昼間や深夜の……終電終わって1時間後くらいまでの世界とは別物だよ。人が起き出す気配どころか、まだ鳥の声もほとんど聞こえなくてさ、俺たちだけが起きて活動してるみたい♡♡」

　ベッドの上でもなければ披露出来ないであろうポエムを聞くなり、愛を届けた唇が再びきゅっと縮こまった。