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第一の試練
第一の試練<48>
「…………私が妊娠しても、千尋くんの不安、消してあげれない? ……『どこにも行かない』って、私が口で言うだけじゃ信じられないんだよね? 本気って……覚悟って、どうしたら伝えられるの?」
しかし、その笑顔は瞬く間に崩壊した。
その下から現れた苦しみを絵に描いたような表情。――――これが、こちらこそが彼女の本音の部分だ。そう直感した。
「さあ、どうだろうね。紗世ちゃんが俺の子を妊娠して俺の不安が消えるかどうかってことも、自分の本気や覚悟を相手に伝える方法も――俺にもわからない。俺が教えてほしいくらいだよ。……でも、ひとつだけわかる。俺の不安を消すためだけに、紗世ちゃんが妊娠するのは絶対におかしいよ。釣り合ってないだろ。重みが違いすぎる。『不安をなくしてあげたい』って気持ちはありがたく受け取るけど、他の方法考えて。絶対あるから、他にも。……今の紗世ちゃんは、星座作った人だってそんな自由な発想しないだろってくらい、離れた星と星を繋げようとしてる。……奇跡が起きて上手く繋がったとしても、誰も納得しない。一から説明されても、たぶん。俺も納得出来ない。おおいぬ座と関連付けて生まれた、こいぬ座みたいなもんだって」
星座の喩えが伝わるかという部分は賭けだったが、仮に意味不明だったとしても、文脈から大体の意味は汲み取れるはずだ。
突拍子もないところはあるが、彼女は馬鹿ではないのだから。
「…………あと、いくら身体張ってるって言ったって、宿った命を私物化したり、自分の好きなように操れる道具だと思ったりしたらダメだよ。紗世ちゃんのお腹にもし赤ちゃんが出来ても、紗世ちゃんとは別の人間で、別の人格。…………だから、俺もその子のこと、紗世ちゃんと同じように愛してあげられる保証はないし」
「私と千尋くんの子でも?」
「うん。俺たちの子なら無条件で愛せる――――って、言ってあげられたらよかったし、俺もそう言いたかったんだけど。……想像の時点でそうなんだから、絶対にやめておくべきだと思う」
「………………そ……っかあ……」
「俺は紗世ちゃんが好き。死ぬほど好き。たぶん、『好き』って言葉に乗っかり切らないくらい、俺の愛は重い。…………愛してる。でも、俺の愛は紗世ちゃんの全部を受け入れることじゃない。元からの性質は全部受け止めるけど、全部のワガママを許せるわけじゃないし、全部の願いを叶えられるわけでもない。俺にも譲るわけにいかない部分はある。……だから、考え直してほしい。軽率な考えを改めてほしい」
「……他の方法って、なにがあると思う……?」
「俺の不安を消す方法? …………そんなものないかもしれないけど、それならそれで構わないよ。俺は。不安なのは、紗世ちゃんを好きな気持ちの裏返しなんだろうし…………。俺が言うのも変だけど、『この子は絶対、自分から離れていかないな』って安心した男って、かなりの確率で女の子のこと雑に扱い始めるから。俺、そういう男にはなりたくないから、不安にさせておいてよ。これからも」
「…………じゃあ、『私は千尋くんのものです』ってアピール出来る方法なら、どうかなあ。私がさっき言ったの以外で」
彼女がぽろっと零したひと言に、眉を上げた。
「私が妊娠しちゃえば、千尋くんの不安も消せて、私は千尋くんの女アピールも出来て、最高だと思ったんだけどなあ……」
「紗世ちゃんが俺の彼女だってアピールする方法?」
直前に付け加えられた恐ろしいひと言については、ノーコメントを貫く姿勢を堅持した。
「うん♡♡ やっぱり、この前のあれを公開するとかかな……?♡♡」
正論の体裁を取った否定に滅多刺しされたばかりの彼女は、うすら寒くなるほどの笑みを口元に広げていた。
そのとき、ようやく俺は理解した。彼女は美しいだけと無害を謳う食虫植物なのだ、と。
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