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第三の試練
第三の試練<32>
「ま~た、おかあさんはそうやって。すぐそういう話題に持ってくから滅多に帰省しなくなるんだってこと、わっかんないかなあ!? それと、何年か経ってるのは確かだけど、たぶんおかあさんが思ってるほどは経ってないと思うよ! ていうか、1年なんて働いてたらすぐ終わっちゃうし、いちいち数えてられないっていうか…………」
かっとなって叩き付ける言葉は暴力にしかならないと知っているはずなのに、感情が溢れて止まらない。
まだ自分の言葉で語ることもままならない頃に、自分の気持ちに掠りもしない代弁をされたことに対して積み重なった鬱憤などに後押しされていたのだろうか。
「あら~、そうだったかしら~?♡♡ ママ、紗世ちゃんのことが好きすぎて、勘違いしちゃってたのかもしれないわねえ…………」
「……一応、感染症のこととかも気にして帰省見送った年もあったから、私が思ってるより久々になっちゃってるのかもだけど……」
「やっぱりそうよねえ? 元気そうだし幸せそうだし、ほんとに良かったわあ♡♡ 『一番の親不孝は親より先に死ぬこと』なんて言ったりもするけど、どこにいたって幸せに生きててくれなきゃ親孝行なんて言えないわよねえ」
「う゛……。声が可愛いのと言ってることが珍しくまともなせいで罪悪感が半端ない…………」
「紗世ちゃんはちょっとは苦しんだり反省したりしたほうがいいんじゃないかしら~? ママ、ほんっっとうに寂しかったのよ?」
「でも、大好きなおとうさんとはずっと一緒だったでしょ? 寂しいもなにもないんじゃないの?」
「パパのことは大好きよ♡♡ だけど、どんなにパパのことが好きでも、紗世ちゃんの代わりにはなれないでしょ~?♡ ママ、この数年で『これ、紗世ちゃんに買っていきましょ♡♡ ……そういえば、次にいつ会えるかもわからないんだったわ』って何回思ったかわからないわ?」
「…………ごめんなさい。2人とも病気とかしてなくてよかった。おかあさんも幸せそうで安心した」
おかあさんの瞳の煌めきの何割かは、溜まった涙によるものだった。
「だけど、せめて『いい人いないの?』とか『彼氏と上手く行ってる?』って感じで切り出してほしかったなあ!! 第一声が『結婚』、その次が『孫』なんて、嫌われても文句言えないんだからね?」
かといって、その程度でおさまる怒りなら最初から抱いていない。
自分でも軽く引くレベルに捲し立てて、乾いた喉に麦茶を流し込んだ。
「紗世ちゃん、ママのこと嫌いになっちゃったかしら…………」
「いや……。鬱陶しいには鬱陶しいけど、そんなのずっと前からだし、別に今更嫌いになるとかはないかなあ。残念なことに……」
「よかったわ~♡ 孫の顔は見たいし、諦めてもないけど、ママは可愛い可愛い娘の紗世ちゃんが幸せに生きててくれたらいいの♡♡」
おかあさんの背後の電子ピアノの上には写真立てが二つ並べられていた。
片方は見覚えのない父と母のツーショット(※よく見たら母のお腹が大きい)、もう片方は私が(おかあさんにせっつかれて)送った仏頂面の自撮りを引き伸ばして印刷したものだった。
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