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第三の試練
第三の試練<39>
「え……!? 嘘でしょ?」
写真立てにおさめられた不機嫌な私は、アルバムに仕舞ってください、出来たら破棄してください――と心の底から願う私を嘲笑っているかのようだ。
(今のめちゃくちゃアゲハ蝶だったな…………)
「嘘なんかじゃないわ~?♡ この紗世ちゃん、お顔とお顔の角度がむか~し話題になった不機嫌な猫ちゃんそっくりじゃない?♡♡ このぱっちりしたおめめにすっとしたお鼻♡ お利口そうなちっちゃいお口♡ ほ~んと美人さん♡♡ これこれ、これよ~♡」
おかあさんは画像検索までしてその猫を見せてきたが、もちろん見覚えなどないし、私と似ているとも思えなかった。
「…………彼氏も私のこと『子猫ちゃん』って言うんだけど、私、そんなに猫っぽいかなあ?」
「彼氏クン、よくわかってるわねえ♡♡ 紗世ちゃんはとっても気まぐれでツンツンしてるけどそこが可愛いところなのよね~♡ 美人さんだから余計メロメロになっちゃうんでしょうね♡♡ 結婚前提なら『旦那クン』って呼んであげたほうが良いかしら♡♡」
「どっちだって良いよ……。まあ、どっちかって話なら『旦那クン』のほうが喜びそうな気はするけど」
「もう♡♡ ラブラブでアツアツでハッピーなんだから~♡ なんで結婚してないのよ~♡ 早くしちゃいなさいよ♡♡ でも、式場のほうが紗世ちゃんたちのほうに来るべきよねえ♡♡」
おかあさんはイケメン至上主義だ。
私がどれだけ巧みに彼のよさをプレゼンしても、直接自分の目で確かめるまでお許しは出ないだろう。
そう踏んで、いつになく真剣にプレゼン資料まで作って臨んできているのだが、まだ私はその1%もプレゼンしていない。
にもかかわらず、現時点ですでにおかあさんは私以上に私たちの結婚に乗り気なようだ。
――――まるで、私の結婚相手が誰で、彼がどういう人なのか事細かに知っているみたいに。
(やっぱり探偵経由で握ってるのかなあ。私の近況もだけど、私の゙彼氏についても)
疑心暗鬼になっているせいか、2階の私の部屋からまたなにかを落としたような物音がした気がするけれど、幻聴かもしれない。
「…………そうだね。否定はしないよ。ところで、おかあさんの幸せの定義ってどんな? この際だし、参考までに聞かせてよ」
写真立てを向こうに向けて突き返し、空いた手でラングドシャをひとつ摘まみ上げた。
私は焼き菓子全般が好きだが、中でもラングドシャの程好い空気含有率と、さくっとしているようでどことなくほろっと感もある口溶けのよさを愛していた。
(…………名前も可愛いよね。フランス語って全体的に響きがお洒落。意味は確か『猫の舌』……だっけ? 猫に喩えられがちな私が猫の舌を好きって)
舌の上の猫の舌は、バターの香りと甘さを残してしょわしょわと消えていった。
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