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親友転序
親友転序<14>
しおりを挟む「でも…………」
――――はずなのに、彼女はまだ口ごもっている。
返事を待つのは苦じゃないけど、指の間とか爪のきわとか弄んでくれちゃって。必死に考えてる最中なんだろうけど、こんなところで前戯始めないでほしい。
待ちきれないの? 俺もだよ。
「もし自分ち帰りたかったら、明日は現地集合にしたらいいしさ? 家の場所知られたくないとかじゃなければ、迎え行くし!」
詳しい事情はわからないけど、じらしてるわけじゃなくて即決できない理由があるみたい。
「……泊まりたくないとかじゃないし、住んでるとこも隠すつもりないんだけど……」
洗濯物干しっぱなしにしてるとかで一旦帰りたいのかもと思って提案してみたら、彼女はようやく重い口を開いてくれた。
「俺に迷惑じゃないかとか気にしてる? 迷惑とか嫌とかだったら自分から言い出したりしないし、泊めるのも送るのも、どっちも大歓迎だよ。『期間限定だけど彼氏だから』じゃなくて、俺がそうしたいと思ってるだけ!」
と、再度畳み掛けたけど――――。
「ありがとう」
彼女は感激している様子なのに、やはり礼を述べる以上のことはしてこない。
かくなるうえは――――。
「…………俺さ、実はいちばん最初のお店でもう一着買ってて」
『自分で持つから!』と詰め寄る彼女をなんとかなだめて奪い取ったショッパーの下のほうから、先ほど彼女が選んでくれたものとは違う服をそっと取り出した。
「それ……! 私、最後までそのワンピースと迷ってたの……!!」
初めは驚愕に染まった彼女の表情が、声が、徐々に歓喜に塗り替えられていった。
「あ、ほんと? よかった! そうじゃないかなあって感じはしてたけど、聞いたわけじゃなかったから、ちょっと心配だったんだ。勝手に買っちゃって大丈夫だったかなとも思ったんだけど、一着増えるだけだったらそこまで気遣わなくていいでしょ?」
「いや、普通に気にするよ!? せめてこのワンピースの分だけでも……!」
「ううん、お金は受け取れない。だって、勝手にしたことだもん。でも、もし明日も俺と過ごしてくれるなら、これ着てほしいな。それが対価ってことで。ね?」
鞄から長財布を出した彼女が、そのまま流れるようにお札を引き抜こうとするのを制した。
「鏑木くん、このサプライズのためにお会計済ませてたの?」
「ん-……。そうだったかも? とりあえず、それは受け取ってもらえるってことでいい? じゃないと、捨てるしかなくなっちゃうしさ」
「ありがとう。大切に着るね!」
真新しい匂いのするワンピースを大切そうに抱き締めた彼女は、今日いちばんの笑顔を見せた。
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