yours-夢の罪過-

片喰 一歌

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親友転序

親友転序<17>

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「…………ただいま♡」

 彼女はリクエスト通りのシンプルな挨拶を耳に届けてくれた。

 語尾にハートまでついてた気がしたんだけど、サービスかな?

 脳内では、メイド服姿の彼女がオムライスをケチャップでデコって『おいしくなあれ♪ 萌え萌えきゅん♡♡』って言ってくれてる。
 
 妄想が逞しすぎるのと色々古いのはご愛嬌。

「おかえり♡♡」

 幸せな妄想とは一旦お別れして、用意していた挨拶を返した。
 
 伝えてはいなかったけど、彼女の『ただいま』に『おかえり』って返すまでが俺の願いだったんだよね。

「……だけど、鏑木くんも帰ってきたばっかりだよね?♡」 

 くるっと振り向いた彼女は、いつもの可愛らしい感じではなく、少し大人びた(年齢的にはとっくに成人してるんだけどね!)微笑みを浮かべていた。

 君が何を望んでいるのかが、一日彼氏として隣にいた俺には手に取るようにわかる。

「そうだったね♡ ただいま♡♡」

 正面から抱き締め――――るよりも先に、彼女が抱き着いてきた。

「おかえりなさい!」

「甘えんぼさんな気分?♡」

 胸かお腹か判断の難しい場所には、柔らかいものが当たっている。
 
 そんなにしっかりハグしてくれるなんて期待してなかったから、喜びもひとしおだ。

「…………かも。お外じゃ、こういうことできないもん……。もうちょっとこうしてていい?」

 だって。可愛すぎ。

「んー……」 

「だめ?」

 彼女は短く尋ねたあと、心地好さそうに顔を擦り付けたり、すんすん鼻を鳴らしたりしている。
 
 『やっぱり猫ちゃんっぽいなあ……』なんて和んでいたら、返事が返ってこないのが不服だったのか、くりくりの目がこちらを向いた。
 
 確かにこの上目遣いには何度も敗北してきたし、俺だってこのままイチャイチャしていたいけど、彼女は帰り際から肌のべたつきを気にしていた。
 
 それに、帰りの電車は最後のひと駅分を除いて立ちっぱなしだったし、駅歩だって多くはないけどないわけじゃない。

 ……というか、一日通して結構歩き回ってた気がするし、いつまでもこうしてるわけにいかないよね。

「だめじゃないけど、紗世ちゃんの気が済んでもが満足しても俺が離れられなくなりそうで…………。紗世ちゃんは優しいからOKしてくれるかもしれないけど、いい加減座らせてあげたいし、汗だって流したいと思うし。は、お風呂入ってさっぱりしてからのほうがいいんじゃない?」 

 『続き』を『今と同じようなこと』と捉えるか『もっと上の段階のスキンシップ』と思うかは君次第だと暗に示しつつ、靴を脱いで上がるように促した。
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