36 / 551
親友転序
親友転序<17>
しおりを挟む「…………ただいま♡」
彼女はリクエスト通りのシンプルな挨拶を耳に届けてくれた。
語尾にハートまでついてた気がしたんだけど、サービスかな?
脳内では、メイド服姿の彼女がオムライスをケチャップでデコって『おいしくなあれ♪ 萌え萌えきゅん♡♡』って言ってくれてる。
妄想が逞しすぎるのと色々古いのはご愛嬌。
「おかえり♡♡」
幸せな妄想とは一旦お別れして、用意していた挨拶を返した。
伝えてはいなかったけど、彼女の『ただいま』に『おかえり』って返すまでが俺の願いだったんだよね。
「……だけど、鏑木くんも帰ってきたばっかりだよね?♡」
くるっと振り向いた彼女は、いつもの可愛らしい感じではなく、少し大人びた(年齢的にはとっくに成人してるんだけどね!)微笑みを浮かべていた。
君が何を望んでいるのかが、一日彼氏として隣にいた俺には手に取るようにわかる。
「そうだったね♡ ただいま♡♡」
正面から抱き締め――――るよりも先に、彼女が抱き着いてきた。
「おかえりなさい!」
「甘えんぼさんな気分?♡」
胸かお腹か判断の難しい場所には、柔らかいものが当たっている。
そんなにしっかりハグしてくれるなんて期待してなかったから、喜びもひとしおだ。
「…………かも。お外じゃ、こういうことできないもん……。もうちょっとこうしてていい?」
だって。可愛すぎ。
「んー……」
「だめ?」
彼女は短く尋ねたあと、心地好さそうに顔を擦り付けたり、すんすん鼻を鳴らしたりしている。
『やっぱり猫ちゃんっぽいなあ……』なんて和んでいたら、返事が返ってこないのが不服だったのか、くりくりの目がこちらを向いた。
確かにこの上目遣いには何度も敗北してきたし、俺だってこのままイチャイチャしていたいけど、彼女は帰り際から肌のべたつきを気にしていた。
それに、帰りの電車は最後のひと駅分を除いて立ちっぱなしだったし、駅歩だって多くはないけどないわけじゃない。
……というか、一日通して結構歩き回ってた気がするし、いつまでもこうしてるわけにいかないよね。
「だめじゃないけど、紗世ちゃんの気が済んでも俺が離れられなくなりそうで…………。紗世ちゃんは優しいからOKしてくれるかもしれないけど、いい加減座らせてあげたいし、汗だって流したいと思うし。続きは、お風呂入ってさっぱりしてからのほうがいいんじゃない?」
『続き』を『今と同じようなこと』と捉えるか『もっと上の段階のスキンシップ』と思うかは君次第だと暗に示しつつ、靴を脱いで上がるように促した。
1
あなたにおすすめの小説
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる