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親友転序
親友転序<20>
しおりを挟む「いただきます♡」
見せつけるためにやや大袈裟に上を向いて、透明色のそれを一気に流し込む。
彼女が該当するかどうかはわからないけど、豪快に飲み物を飲む姿にきゅんとくる女の子は多いって聞いたことがあったから。
もしかしたら喉仏フェチかもしれないしね。
「……冷たいのじゃなくてよかったの? お水だし……。最近、炭酸水にハマってるって言ってなかった?」
中身がなくなった頃合いを見計らって、彼女はおずおずと尋ねてきた。
「よく覚えてるね? こないだちょろっと話しただけなのに」
本当に訊きたいのはそこじゃないくせに、照れちゃって可愛い。
「これから冷たいデザート食べるんでしょ? その前なんだから、常温でちょうどいいくらいだと思って。身体冷やしすぎるのもよくないし」
「言えてる……!」
本音でもあり建前でもあるリバーシブルな理由でちゃんと納得してくれたらしい彼女は、小さく拍手を送っている。
「言うほどぬるくもなってなかったしね。紗世ちゃんこそ、なんでお酒じゃなくてお水? 目移りしちゃって決められなかった?」
「それもあるんだけど…………」
覚悟を決めたように、彼女は目を合わせてきた。
「せっかく鏑木くんといるのに、また記憶飛ばしちゃうのはもったいないし嫌だなあって思ったから……」
「お酒入ってるほうが大胆になれるとしても、飲みたくない?」
「うん。なんか、ずるしてるみたいだし。今の私じゃ、飲むんじゃなくて飲まれちゃうんじゃないかって気がするし……。それにね、お酒はいつでも飲めるけど、鏑木くんとこんな風に過ごせるのは今日だけかもしれないもん」
余らせてしまっているTシャツの裾を握り締め、小声でもじもじと話すさまは、閉園間際の遊園地でまだ帰りたくなくて拗ねる子どものようだと思った。
「延長OKしてくれたから、俺は明日も紗世ちゃんの彼氏だよ?」
告白にもOKしてくれたら明後日以降もそうだし、夫の座も狙ってるけど。
そんな計画もそこに至るまでの策略も笑顔の裏に押し込んで、肩を抱き寄せた。
「ありがと。明日もすごく楽しみ! ……だけど、今日は今日だけだし、夜にはおうち帰らなきゃだから、寝る前も寝るときもひとりだもん……」
素直に凭れて頭を擦り付ける子猫めいた仕草に庇護欲が搔き立てられたはいいけど、そのたびにさらさらの髪がざりざり音を立てるから、キューティクルが心配になった。
「そうだね。予定になかったことだし、これ以上、おうち空けるわけにいかないもんね」
「うん……」
「…………だから、今はさ。なんでもしたいことしようよ。俺としたいこと。なんでも言ってみて?」
「アイス食べたいな」
「うん、一緒に選び行こっか。まだ何があるか見てないんだもんね」
示し合わせたわけでもないのに同時に立ち上がって、まんまる瞳の彼女と顔を見合わせた。
短い移動だというのに繋いできた薄い手は、少し熱かった。
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