yours-夢の罪過-

片喰 一歌

文字の大きさ
39 / 551
親友転序

親友転序<20>

しおりを挟む

「いただきます♡」

 見せつけるためにやや大袈裟に上を向いて、透明色のそれを一気に流し込む。

 彼女が該当するかどうかはわからないけど、豪快に飲み物を飲む姿にきゅんとくる女の子は多いって聞いたことがあったから。
 
 もしかしたら喉仏フェチかもしれないしね。
 
「……冷たいのじゃなくてよかったの? お水だし……。最近、炭酸水にハマってるって言ってなかった?」

 中身がなくなった頃合いを見計らって、彼女はおずおずと尋ねてきた。

「よく覚えてるね? こないだちょろっと話しただけなのに」

 本当に訊きたいのはそこじゃないくせに、照れちゃって可愛い。

「これから冷たいデザート食べるんでしょ? その前なんだから、常温でちょうどいいくらいだと思って。身体冷やしすぎるのもよくないし」

「言えてる……!」

 本音でもあり建前でもあるリバーシブルな理由でちゃんと納得してくれたらしい彼女は、小さく拍手を送っている。

「言うほどぬるくもなってなかったしね。紗世ちゃんこそ、なんでお酒じゃなくてお水? 目移りしちゃって決められなかった?」 

「それもあるんだけど…………」

 覚悟を決めたように、彼女は目を合わせてきた。

「せっかく鏑木くんといるのに、また記憶飛ばしちゃうのはもったいないし嫌だなあって思ったから……」
 
「お酒入ってるほうが大胆になれるとしても、飲みたくない?」

「うん。なんか、ずるしてるみたいだし。今の私じゃ、飲むんじゃなくて飲まれちゃうんじゃないかって気がするし……。それにね、お酒はいつでも飲めるけど、鏑木くんとこんな風に過ごせるのは今日だけこれっきりかもしれないもん」

 余らせてしまっているTシャツの裾を握り締め、小声でもじもじと話すさまは、閉園間際の遊園地でまだ帰りたくなくて拗ねる子どものようだと思った。
 
「延長OKしてくれたから、俺は明日も紗世ちゃんの彼氏だよ?」

 告白にもOKしてくれたら明後日以降もそうだし、夫の座も狙ってるけど。

 そんな計画もそこに至るまでの策略も笑顔の裏に押し込んで、肩を抱き寄せた。
 
「ありがと。明日もすごく楽しみ! ……だけど、今日は今日だけだし、夜にはおうち帰らなきゃだから、寝る前も寝るときもひとりだもん……」

 素直に凭れて頭を擦り付ける子猫めいた仕草に庇護欲が搔き立てられたはいいけど、そのたびにさらさらの髪がざりざり音を立てるから、キューティクルが心配になった。
 
「そうだね。予定になかったことだし、これ以上、おうち空けるわけにいかないもんね」

「うん……」

「…………だから、今はさ。なんでもしたいことしようよ。俺としたいこと。なんでも言ってみて?」

「アイス食べたいな」

「うん、一緒に選び行こっか。まだ何があるか見てないんだもんね」

 示し合わせたわけでもないのに同時に立ち上がって、まんまる瞳の彼女と顔を見合わせた。
 
 短い移動だというのに繋いできた薄い手は、少し熱かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました

加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...