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“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<19>
しおりを挟む「美味しかったね。ご飯もケーキも!」
車に戻ってから、彼は満足そうに伸びをした。
「ね♡ もっと小さいのでよかったのに……♡♡ 沢田さん、本当にいい人だね!」
『アニバーサリーケーキを特別バージョンで出す』と言い、大きなケーキが置けるテーブルに座るよう指定してきた沢田さんは、サービスの範囲を大きく超えたケーキをサーブしてくれた。
(『他のお客さんいないから手空いてる』って言って、写真まで撮ってくれたし。鏑木くんがいい人だから、お友達もいい人が集まるんだろうなあ)
名前のプレートは別々になっていて、二枚が寄り添うように立てられていたので、鏑木くんには私の名前の書かれたほうを、私は鏑木くんの名前が書かれたほうをそれぞれいただいた。
(美味しくて、思った以上に食べちゃった。来週平日はずっとダイエットスープでいいかも……。今から帰ったあとのことなんて考えたくないけど、帰ったらすぐ仕込んじゃおっと)
その残りがいま、私の膝の上に乗っている――――というか、上に乗りきらずにはみ出している。ケーキが大きかったので、それを収めるケーキボックスは必然的にケーキより大きいサイズになるというわけだ。
「うん。最近物価高いし、儲け度外視なのはちょっと心配だけど。独自の仕入れルート……もチェーンと違って大量発注できないから厳しいだろうし、まあないだろうな……。今度会ったとき、さりげない感じで聞いてみるか。不振そうだったら、ちょっとおせっかいアドバイスしとくよ」
鏑木くんは会話の傍ら、車を発進させた。
「でも、『お祝いしてやろう』って気持ちが何より嬉しかったね。割引は阻止したけど、ケーキ代受け取ってもらえなかったから、近いうちにお礼しないとな……。何差し入れるか…………。こないだは何にしたんだっけな?」
真剣に考える彼の横顔はとても美しい。
「今から見に行く?♡」
少しでも長く見ていたいなんて邪な思いは、そんな提案となって口から転び出た。
「差し入れの下見?♡♡ 楽しそうだね♡ ……俺はいいけど、今日の紗世ちゃんの靴は歩くのに不向きなんじゃない?」
「!」
足元まで見られているとは思わなくて、咄嗟に運転席に首を向けたけれど、鏑木くんは前を向いたままだ。
「知ってたんだ……! そうなんだ。可愛いなぁと思って奮発しちゃったけど、歩く必要のないセレブのための靴だったのかも。鏑木くんにも見てほしくて履いちゃったんだけど、急な予定変更にも対応出来る靴のがよかったよね……」
「売り物なんだから、誰が買ったっていいでしょ。俺も可愛いと思うよ♡ すごく似合ってる♡ 見せてくれてありがとう♡♡」
「!!」
ケーキの箱の上にわんちゃんを乗せていてよかった。今はまだ直接渡せない『大好き』を、もう一度、その小さな身体に受け止めてもらった。
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