yours-夢の罪過-

●REC

●REC＜17＞

「…………痛くないかな」

　暗い暗いグレーアッシュの後頭部が上を向いていた――が、表情を見て大丈夫だと判断したんだろう。身体を折り、まだキスの済んでいない唯一の場所へと迫っていく。

（めちゃくちゃ集中してるな、俺。仕事と同じくらい……それ以上でもおかしくないな。初めは小手調べって感じで軽くキスしてたんだっけ。他のとこは全部終わってたし、一ヶ所だけしないのも変だし。でも、鼻が当たったときに紗世ちゃんがびくってして……♡♡）　

　俺の思考を追いかけてきたかのごとく、問題のシーンが再生された。

　突如、彼女が女神様と見紛うほどの極上の女体を揺らした。映像内の俺も彼女の反応を受けて動きを止め、再度顔を上げた。

（……あー、なるほどね？♡♡ はいはい、そうだったそうだった♡ 起きてはなかったけど、可愛いお顔がよく見えるようになって、やる気出たんだよね♡♡ さっきまでの体勢、寝ててもきつかっただろうし）

　そう。彼女は深い眠りの底から目覚めたわけではなかったが、水を与えられ再生を遂げた花のように愛くるしい寝顔を俺に向けていた。
　
（よかったね♡♡ 謎の女の子の正体がわかって♡ もう誰にも妬かないでいいんだよ♡ 俺が愛してる女の子なんて君しか紗世ちゃんの敵なんてどこにもいないんだから……♡♡）
　
　あっちの彼女とは対照的に、ちょっぴり丸まったままの彼女の背中に身体をくっつけた。

（――――にしても、こっちの紗世ちゃん、さっきから全然動かないな。ちゃんと起きてる？　こんなもの観せられて寝れるほど神経図太いコじゃないのは知ってるし、確認するまでもないけど♡♡）

　しかし、彼女は本物の俺の挙動には反応を示さない。おおかた、固唾を呑んで成り行きを見守っているだけなんだろうけど、意外とかまってほしいタイプの俺としては面白くなかった。

（……もうちょっとしたら、ちょっとい・た・ず・ら・してみても面白そうだな♡♡）

　とんでもない計画（というほど大それたものではないが）が進行しているとは知らない彼女を、今日はどんな風に可愛がってあげようか♡♡

（記憶が正しければ、このあと可愛い声が聞けるはず♡♡）
　
　うなじから漂ってくる甘い匂いを無駄にたくさん吸い込みながら、さらにふたつほど音量を上げた。



＜紗世side＞

　
「……ん♡ …………っ♡」

　私・の・身・に何が起こっているんだろう。

　――――というのは、大迫力のテレビ画面に映る私に対しても、撮られたおぼえのない映像を観ている私自身に対しても思っていることだった。