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恋人遊戯
恋人遊戯<139>
しおりを挟む「なんでそうなるんだよ。俺がいつそんなこと言ったって言うのさ。何年何月何日何曜日の何時何分何秒? 地球が何回回ったとき? ――ついでに今日の月相は?」
彼女のことを言えないレベルに極端な人間だという自覚はあるが、それでも腹の虫が収まらず、強すぎるくらいに否定した。言葉のチョイスもそうだけど、不機嫌を音に変換したみたいな早口の低音には自分でも驚いた。
「それいまだに使ってる人いたんだ…………。最後のほうは聞いたことない感じだったけど」
彼女はTシャツを離し、小さな手を上腕に滑らせた。欲を言えば、ただ置いておくんじゃなくて掴んでほしいけど、今はそれで充分だ。
「初めて言ったよ。ちなみに最後のほうはアレンジ。何事もオリジナリティは大事だろ?」
「何事もかどうかは考える必要あると思うけど、千尋くんは意識しなくても千尋くん以外の何者でもないから変に力まなくていいんじゃない? ……彼女になってまだ日が浅い私に何がわかるんだって感じかもだけど、千尋くんにしかないよさっていっぱいあるよ?」
「それは――――男としての価値的な意味で?」
彼女が屹立したモノにやたら興味を示していたことを思い出し、何気ない風を装って問いかけた。
「……言い方はちょっと露悪的すぎるけど、そう……。付き合った瞬間から豹変する男ばっかりだったから。千尋くんは変わらないでいてほしいところはそのまんまで、だけど、ちゃんとドキドキさせてくれるから、最高の彼氏だと思う♡♡ たまに意地悪すぎてつらいけど、それも含めて好きになったんだし、私が慣れてけばいいかなあって。……私も彼女としての価値、ちゃんと示せてる?」
こてんと首を傾げる姿は、この世でいちばん愛くるしいと言っても過言ではなかった。
「そりゃもうばっちり♡♡ だけど、別にそんなものなくたっていいんだよ。くどいようだけど、俺としてはずっと好きだったコが俺の彼女になってくれてるってだけで幸せなんだから。――『好きな人』ってさ、それだけで特別じゃん? 『あんなパッとしない奴のどこがいいの?』って陰口叩かれるような奴だろうがなんだろうが、代わりなんていないキラキラした存在」
俺が片想いを拗らせた原因のひとつは、誰にも相談できずに彼女への想いを募らせていたことだと思うが、かといって、むやみやたらに外に出せばいいというものでもないらしい。
(紗世ちゃんのこと考えてヌくときに精液と一緒に発散出来てると思ってたんだけど、そう上手くは行かないか……。付き合ってから、今まで以上に好きになってる)
長年自分の中で育てていた感情は、言語化によって輪郭を持つことでより強くなり、今まで愛だと思い込んでいたものの矮小さを思い知った。
一方的な愛など愛に似せた何かだ――とまでは言わないが、好きな男の前でしかしない表情を真正面から見せられるたびに、胸焼けしそうなほど甘い声で名を呼ばれるたびに、極上の女体に触れるたびに、彼女にしてあげられることを探してしまう。なるべくなら、それが俺にしか出来ないことであればいいと願ってしまう。
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