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眷属の王は、塔の上から見下ろしている

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白夜狐は、機嫌が悪かった。あちこちの墓陵が荒らされ、事もあろうか、何者かの血で、汚されている。聖地で、汚れた血が流されるとはあっては、いけない事だった。眷属として、地を任されている白夜狐に取っては、馬鹿にされたも当然だった。更に、不快に思うのは、連続した人間の発火事件だった。何も、残さず、連続して若い女性が姿を消している。石棺が、荒らされた時期と同じではあるが、魔猫だけが原因とは、思えない。
「どうしますか?」
「どうしますか?って」
思わず、大声をあげて、周りの目を引いてしまった。
「脅かすなよ。。。」
白夜狐は、亜黄を見上げた。自分より、背の高い少年に、化身した亜黄がそこの立っていた。
「本当の姿と、どうして、こうも、違うのかね」
亜黄は、化身した姿を誇らしげに、腕を開黄、体をくるくる回してみせた。
「好きな姿でいいって、白夜狐様が言うから。。。俺は、こういう人間の姿がいいなーって、思って」
亜黄は、化身した姿に満足しているようだった。
「なるべく、目立たないようにしろって言ったと思うけど」
白夜狐は、かけていたメガネを擦った。
「白夜狐様ったら、遠慮して。冴えない姿を選ぶから、誰も、
気づかなくて、いいのか、どう」
亜黄は、満足そうだった。ショウウィンドーに映る自分の姿に、見惚れてポーズを決めている。
「白夜狐と言うな」
白夜狐は、コホンと席をして、亜黄の袖を引いた。
「行くぞ。。」
何か、不穏な気配を感じ、白夜狐は、亜黄に歩き出すように促した。
「はい。。柊雨様。。」
慌てて、亜黄は、白夜狐に従った。聖域の汚れた血による洗礼と人体の発火事故が、何か、関わりがあると長年の経験が告げている。
「あちこち、飛び続けて、俺も疲れているんですよ。白夜狐様。。。あ!柊雨様、真冬様は、なんて」
白夜狐は、ふんと鼻を鳴らした。
「あちこちで、起きている発火事件との関連を調べているが。。。どうも、始祖の鉾が狙われたのが気になる」
「この国の始祖ですからね。赤森も荒らされてきたとなると。。。」
「魔猫ではないと。。なると」
亜黄と白夜狐は、顔を合わせた。
「まさか。。。だよな」
白夜狐が手で、韻を結び、その印を宙に放つと、急に街並みは、地に沈み、景色は、反転した。亜黄と白夜狐は、街で1番高い塔の上から、街並みを見下ろしていた。
「また、時間はあるのだろう?」
白夜狐は、亜黄に確認した。
「時間は、ある筈ですけど、聖域が汚されたので、覚醒しているかもです」
「やっぱり、閉じ込めておきだけでは、だめだったんだな」
遠く見つめる先には、犀花の住む家があった。
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