上 下
67 / 75

雨が空気を浄化する。真冬は、白夜狐を救えるのか?

しおりを挟む
真冬は、じっと、神殿で、剣を抱えたまま、動かずにいた。犀花は、一旦、墓陵から離れ、自分の育った環境を片付けに行っていた。母だと思っていた依代に別れを告げ、自分を守って亡くなった父親の墓参りに行っていた。犀花を狙い、滅せようとした者は、結局、キリアスの魂が呼んだ結果だったのか。今は、キリアスの魂は、聖女に癒され、犀花の中で、眠っている。どうして、あの時、白夜狐は、両目を失ったのか?どうして、神女の魂を蘇らせようとしたのか?真冬は、何か、大事な事を見落としている気がしてならない。白夜狐は、自分の命を断つ為に、過去に戻った。が、結局、過去の自分に会う事もなく、戻り、過去の不死の神を連れてきた。過去と現在が、重なる事で、お互いが消滅し合い、反動で、富士の山の活動は、高まる。地上のエネルギーが高まり、封印されてきた麓の高天原の門が開く。それは、八百万の神にとって、喜ばしい事なのだが、訳あって封印されてきた高天原の封印を解くのは、何故なのか?あの時に、目を失った白夜狐と現在の白夜狐は、同じなのか。
「何か、見落としている気がする」
自分の弟のように、可愛がっていた白夜狐も、今や、眷属の王まで、登り詰めた。神女が命を絶ってから、白夜狐は、修練を積んで、非情な仕事も、こなし、霊力をつけていった。彼は、神女を亡くした原因の八百万の神に、仕え続けている。
「目を失うほど、大事に思っていた人。禁威を犯してまで、神女を転生させた人なのに、どうして?」
高天原を開く?真冬は、考えた。一番先に、犀花に気付いたのも、白夜狐である。学生の彼女と同じクラスに現れ、彼女の中のキリアスを呼び覚ました。白夜狐は、犀花が、誰が転生した者か、知っていたのではないだろうか?国内の墓陵で起きた異変の数々も、あまりにもタイミングが良すぎる。
「何を起こそうとしているの?白夜狐は。私達の本文とは違うわよ・・」
じっと、剣を抱きながら、考え込む真冬は、壁に、人影が映るのを見つけた。
「白夜狐??」
そうだった。どこに行ってきたのか、白夜狐は、傷だらけだった。
「何が、あったの?」
「嫌・・・」
真冬の手を払い、疲れ切って、床に座り込む。壁に寄りかかる姿は、あちこちに小さな傷を負い、両腕からは、鮮血が流れでいた。
「白夜狐。聞きたい事があるんだけど」
どこで、怪我をしたのかは、どうでもいい。あの時、何があったか、知りたかった。聞こうにも、聞けなかった。傷つけ合った過去の話だ。
「あの時・・・その目は?」
白夜狐の双眸は、まっすぐ、こちらを向いていた。変わらず、深く銀色にも見える灰色の瞳。その中には、葵い炎が、灯っている。あの時、目を失ってはいなかったの?
「俺の目?」
右手で、両目を隠すように、俯き笑う。
「どうしたの真冬。あの時と、変わらない。確かに、両目は、怪我をした。強い光だったからね。何もない。何もないよ」
真剣に呟く姿に、真冬はどきっとした。長い時間をかけて、白夜狐は、大人になっていった。神女との事は、遠い過去なのか。
「そう。そうよね」
真冬は、思い直した。眷属の王まで、務めた白夜狐が、裏切るはずなどないと。
しおりを挟む

処理中です...