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第16話:香りに宿る勇気、伝えられなかったSOS
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あの日、僕は気づいていた。
1年生の空き教室。
佐伯柚葉が倒れていた部屋の机の裏側に、微かに残された“異物の香り”。
それは、ただの汗や消毒液ではなかった。
古紙と、カビと、湿った泥。
誰かがそこに、“何か”を隠していた。
放課後、誰もいない空き教室。
僕はひとりで机の下を探り、すぐに見つけた。
そこに貼りついていたのは、小さく折りたたまれた茶封筒。
ホチキスで机の裏に止められていて、中にはびっしりと手書きの文字が書かれた紙切れが入っていた。
その瞬間――僕の鼻に、強烈な香りが突き刺さる。
インクの揮発臭、そして……涙の匂い。
(これは……“誰かが泣きながら書いた手紙”だ)
僕は封筒の中の紙を開き、読み始めた。
『私は、ここにいます。誰にも気づいてもらえない。
声に出したら、壊れそうだから、香りで届けたい。
どうか、この匂いを嗅ぎ取って。これは、私のSOSです。』
震えるような文字。
文面の端には、薄く滲んだ水滴の跡――それはきっと、香水では隠しきれなかった“本当の感情”の匂い。
「白井くん……そこにいたんだ」
背後から、静かな声。
振り返ると、そこには佐伯柚葉が立っていた。
制服の襟元には、今朝のものとは違う、優しいグリーンティーの制汗剤の香り。
でも、その奥に――乾いた涙の塩気と、心細さの匂いがあった。
「これ……君が書いたの?」
柚葉は目を伏せ、小さく頷いた。
「ごめんなさい……誰にも、話せなかったの。
友達とも距離ができてて、家でも……。誰かに“ちゃんと届けたくて”、でも声が出なかったの。
だから、匂いなら……もしかしたら、気づいてくれる人がいるかもしれないって……」
「……届いてたよ」
僕はそう言った。
「僕の鼻は、君の“助けて”って匂い、ちゃんと拾った」
柚葉の肩がわずかに震えた。
「変だよね……“助けて”って、匂いじゃ伝わらないのに……」
「そんなことない。言葉が言えなくても、声を出せなくても、香りは心を残すんだ。君は……誰よりも勇気を出したよ」
しばらく沈黙が続き、そして柚葉がそっと笑った。
「白井くんって、不思議だね。
でも……ありがとう。君がいてくれて、よかった」
*
帰り道。
夕焼けの風が少し涼しくなって、蝉の声が響く校庭の端を歩いていた。
ポケットの中には、あの手紙のコピー。
僕はまだ、心の奥にそれをしまったままにしていた。
“香りに託された勇気”
それは、声にできなかった想いの形。
きっと、これからも誰かが、匂いにSOSを乗せて僕に送ってくるだろう。
だからこそ、僕は――香りを嗅ぎ続ける。
事件のためでも、恋のためでもない。
誰かの「助けて」が、埋もれないように。
つづく。
1年生の空き教室。
佐伯柚葉が倒れていた部屋の机の裏側に、微かに残された“異物の香り”。
それは、ただの汗や消毒液ではなかった。
古紙と、カビと、湿った泥。
誰かがそこに、“何か”を隠していた。
放課後、誰もいない空き教室。
僕はひとりで机の下を探り、すぐに見つけた。
そこに貼りついていたのは、小さく折りたたまれた茶封筒。
ホチキスで机の裏に止められていて、中にはびっしりと手書きの文字が書かれた紙切れが入っていた。
その瞬間――僕の鼻に、強烈な香りが突き刺さる。
インクの揮発臭、そして……涙の匂い。
(これは……“誰かが泣きながら書いた手紙”だ)
僕は封筒の中の紙を開き、読み始めた。
『私は、ここにいます。誰にも気づいてもらえない。
声に出したら、壊れそうだから、香りで届けたい。
どうか、この匂いを嗅ぎ取って。これは、私のSOSです。』
震えるような文字。
文面の端には、薄く滲んだ水滴の跡――それはきっと、香水では隠しきれなかった“本当の感情”の匂い。
「白井くん……そこにいたんだ」
背後から、静かな声。
振り返ると、そこには佐伯柚葉が立っていた。
制服の襟元には、今朝のものとは違う、優しいグリーンティーの制汗剤の香り。
でも、その奥に――乾いた涙の塩気と、心細さの匂いがあった。
「これ……君が書いたの?」
柚葉は目を伏せ、小さく頷いた。
「ごめんなさい……誰にも、話せなかったの。
友達とも距離ができてて、家でも……。誰かに“ちゃんと届けたくて”、でも声が出なかったの。
だから、匂いなら……もしかしたら、気づいてくれる人がいるかもしれないって……」
「……届いてたよ」
僕はそう言った。
「僕の鼻は、君の“助けて”って匂い、ちゃんと拾った」
柚葉の肩がわずかに震えた。
「変だよね……“助けて”って、匂いじゃ伝わらないのに……」
「そんなことない。言葉が言えなくても、声を出せなくても、香りは心を残すんだ。君は……誰よりも勇気を出したよ」
しばらく沈黙が続き、そして柚葉がそっと笑った。
「白井くんって、不思議だね。
でも……ありがとう。君がいてくれて、よかった」
*
帰り道。
夕焼けの風が少し涼しくなって、蝉の声が響く校庭の端を歩いていた。
ポケットの中には、あの手紙のコピー。
僕はまだ、心の奥にそれをしまったままにしていた。
“香りに託された勇気”
それは、声にできなかった想いの形。
きっと、これからも誰かが、匂いにSOSを乗せて僕に送ってくるだろう。
だからこそ、僕は――香りを嗅ぎ続ける。
事件のためでも、恋のためでもない。
誰かの「助けて」が、埋もれないように。
つづく。
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