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第117話「香らない告白──“好き”は香りに頼らない」
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静寂の教室に、ひとつだけ音が響いた。
──カタン。
ドアが、ゆっくりと開いた音。
僕はその瞬間、思わず息を止めた。
風も止まり、雨も上がっていた。
でも、香りはなかった。まったくの“無臭”。
この教室を満たしていた“香りの記憶”は、今はどこにもない。
それなのに──
「……いぶき?」
思わず、名前を呼んでいた。
姿はまだ見えない。香りも、ない。
なのに、わかった。
この無臭の気配。
この静けさの中に滲む、“気持ちの色”。
僕の嗅覚が、それを“香りではなく、心”で捉えた。
そっとカーテンが揺れ、
教卓の陰から彼女──いぶきが現れた。
傘も差さず、髪の先に雨粒を残したまま。
彼女は、ゆっくりと歩いてきて、僕の正面に立つ。
「……なんで、私ってわかったの?」
「……わかるよ。香らなくても」
僕は立ち上がって、正面から彼女を見つめた。
「いぶきの気配って、静かで、優しくて。
それが……この空間に、すごく自然に馴染んでて」
「何も香らないからこそ、“いぶきらしさ”が、はっきり伝わった」
彼女の瞳が、わずかに揺れた。
けれど、すぐに微笑んで──小さく、でもはっきり言った。
「香りがなくても、私は……あなたを好きでいられるよ」
その言葉は、何の香りも纏っていなかった。
でも、だからこそ。
その“好き”は、すごく純粋で、すごく真っ直ぐだった。
「白井くんは、香りでたくさんのことを覚えてる人だけど……
私は、“香りがなくても覚えててほしい”って思ったの」
「それって、わがままかな?」
僕は首を横に振った。
「違う。むしろ……それが一番、嬉しいかもしれない」
「香りは……記憶に残る。でも、心に残るのは、“気持ち”だと思う」
いぶきの瞳に、ぽつりと涙がにじむ。
でも、それを拭わずに、僕の手をそっと握ってきた。
その手も、ほんのりと冷たくて。
でも、あたたかかった。
香りのない空間で──
僕は確かに、彼女の“想い”を感じていた。
「ありがとう、いぶき」
夕暮れの光が、雲の隙間から射してきた。
静かな教室。
無香の空間。
それでも、胸の中にあるのは──たしかな恋の匂いだった。
つづく。
──カタン。
ドアが、ゆっくりと開いた音。
僕はその瞬間、思わず息を止めた。
風も止まり、雨も上がっていた。
でも、香りはなかった。まったくの“無臭”。
この教室を満たしていた“香りの記憶”は、今はどこにもない。
それなのに──
「……いぶき?」
思わず、名前を呼んでいた。
姿はまだ見えない。香りも、ない。
なのに、わかった。
この無臭の気配。
この静けさの中に滲む、“気持ちの色”。
僕の嗅覚が、それを“香りではなく、心”で捉えた。
そっとカーテンが揺れ、
教卓の陰から彼女──いぶきが現れた。
傘も差さず、髪の先に雨粒を残したまま。
彼女は、ゆっくりと歩いてきて、僕の正面に立つ。
「……なんで、私ってわかったの?」
「……わかるよ。香らなくても」
僕は立ち上がって、正面から彼女を見つめた。
「いぶきの気配って、静かで、優しくて。
それが……この空間に、すごく自然に馴染んでて」
「何も香らないからこそ、“いぶきらしさ”が、はっきり伝わった」
彼女の瞳が、わずかに揺れた。
けれど、すぐに微笑んで──小さく、でもはっきり言った。
「香りがなくても、私は……あなたを好きでいられるよ」
その言葉は、何の香りも纏っていなかった。
でも、だからこそ。
その“好き”は、すごく純粋で、すごく真っ直ぐだった。
「白井くんは、香りでたくさんのことを覚えてる人だけど……
私は、“香りがなくても覚えててほしい”って思ったの」
「それって、わがままかな?」
僕は首を横に振った。
「違う。むしろ……それが一番、嬉しいかもしれない」
「香りは……記憶に残る。でも、心に残るのは、“気持ち”だと思う」
いぶきの瞳に、ぽつりと涙がにじむ。
でも、それを拭わずに、僕の手をそっと握ってきた。
その手も、ほんのりと冷たくて。
でも、あたたかかった。
香りのない空間で──
僕は確かに、彼女の“想い”を感じていた。
「ありがとう、いぶき」
夕暮れの光が、雲の隙間から射してきた。
静かな教室。
無香の空間。
それでも、胸の中にあるのは──たしかな恋の匂いだった。
つづく。
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