「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第121話「発見──腐臭の源はそこにあった」

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 スコップの刃が、土に沈む音が響いた。

 ぐっ……、ざくっ、ぐしゃ──。

 

 黒沢先生の隣で補助員の教師が黙々と作業を進めていく。

 ここはすでに、生徒立ち入り禁止のエリアとなり、ポールとビニールテープが張られていた。

 けれど僕は、そこから一歩も動けなかった。

 いや──鼻が動こうとしなかった。

 風も香りも、この一点に集中している。

 

「……あった」

 

 教師の一人が、小さくつぶやいた。

 

 スコップで掘り起こされた土の中に、それはあった。

 腐敗した布切れ。
 ただの雑巾にも見えたそれは、よく見ると明らかに衣類だった。

 

 そして、布の下に、茶色く変色した“何か”が見えた。

 白でも黒でもない、奇妙な灰色の質感。

 湿った土と混じり、そこだけ異様な虫の群れが発生していた。

 

「──っ!」

 近くの教員が、思わず後ずさる。

 

 腐臭が、一気に空気を侵した。

 今まで栗の香りに包まれていた空気が、明確に“腐ったもの”の支配下に置かれた瞬間だった。

 

 土の中から見えていたのは──人間の手だった。

 

 指先の爪が半ば剥がれかけ、皮膚は剥離し、骨との境界が曖昧なままに土と混じっている。

 その上には、古びた袖口が半分埋まっていた。

 

「……人だ。これは、完全に……」

 

 黒沢先生が顔を伏せ、すぐさまスマホを取り出して通報する。

「……こちら○○学園、自然体験学習中の栗林内にて、腐敗した遺体の一部を発見しました。場所は──」

 声が遠くなる。

 

 僕は、ひたすらにその空気を嗅いでいた。

 嗅覚を研ぎ澄まし、腐臭の中に混じる“人間の痕跡”を。

 

 血液。消化液。胃酸。脂肪酸。アンモニア。硫化水素。インドール──

 

(やっぱり……人間の腐敗だ。しかも、完全に自然分解が進んでる……)

 

 そのときだった。

 

「白井──!」

 

 声がした。

 ふと顔を上げると、テープの外側にヒロインたちが揃って立っていた。

 ルナ、美月、いぶき、紅葉、そして遥香。

 皆、心配そうな顔をしてこちらを見つめている。

 

「白井、なにしてんの!? なんで、そんなとこにいんの……?」

「さっきまで一緒にいたのに……急にいなくなるから……」

「先生たち、顔が真剣すぎて……まさかって思ったけど……」

 

 紅葉の声がかすかに震えていた。

 僕は、一歩だけ後ろに下がって、ヒロインたちに向き直る。

 

「……これは、“香り”で分かったんだ」

 

 その言葉に、空気が静まった。

 

 僕の鼻が導いた“異臭”。
 その結果が──

 秋の栗林に埋もれていた、“誰かの命の終わり”だった。

 

 ヒロインたちは何も言えなかった。

 ただ、僕の顔と、背後の異様な空気を交互に見つめていた。

 

 彼女たちは、もう知っていた。

 僕の“嗅覚”が、ただの変態センサーじゃないこと。

 それが時に──真実すら暴く、恐ろしい感覚であることを。

 

 そしてその嗅覚が今、また一つの死を──香りだけで掘り起こしたのだということを。

 

 秋の香りは、やさしいだけじゃない。

 香りは、過去の罪まで記憶してしまう。

 

 つづく。

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