「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第131話「香りのすれ違いと、恋心の本音」

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 全問正解。

 教室は歓声に包まれ、僕は目隠しを外して、ようやくひと息ついた。

 

 ヒロインたちはそれぞれ嬉しそうに微笑んでいる。

 いぶきは頬を赤らめながらうつむき、
 紅葉は小さく肩をすくめて「さすが」と呟き、
 ルナはガッツポーズで「だよね!」と弾けるように笑い、
 美月は眼鏡の奥で静かに微笑み、
 遥香は──僕をじっと、真っ直ぐに見ていた。

 

 ……なんだ、この空気。

 なんか、嫌な予感しかしない。

 

 ルナが、にやっと笑いながら言った。

「で、でさー! 白井、どの香りが一番“好き”だった?」

 

「──は?」

 

 僕は一瞬、耳を疑った。

 

「いや、好きとか嫌いとか、そういう問題じゃ──」

「あるある! 絶対ある!」
 ルナがぐいぐい詰め寄ってくる。

 

 紅葉も、目を細めながら静かに乗っかってきた。

「嗅覚って、感情に直結するものだから。“心地いい香り”って、つまり……」

 

「“本能的に惹かれてる”ってことだよねぇ?」

 遥香が、わざとらしく悪戯っぽく笑いながら追い打ちをかけた。

 

(……詰んだ)

 

 僕は、焦る。

 だが、咄嗟に何も言えなかった。

 そして──
 小さな、致命的なミスを犯してしまう。

 

 無意識に。

 ふと。

 

「……ああ、でも、いぶきの香り、すごく安心したかも」

 

 ──言ってしまった。

 

 言った瞬間、教室の空気が、ピシリと凍った。

 

 いぶきは、ぽかんとしたあと、耳まで真っ赤になり。

 

 他のヒロインたちは──

 

 美月:眼鏡をクイ、と持ち上げて「……へぇ」

 ルナ:「ま、まぁ、白井の嗜好は自由だけどさぁ!? 別に、ねぇ?」

 紅葉:「データ上では確かに安定感のある香りだったけど……」

 遥香:「ふぅん?」

 

 

 ──ああ。

 

(俺、やらかした)

 

 

 ヒロインたちの瞳が、明らかに戦闘モードに切り替わった。

 

「じゃあさ、白井?」

 遥香が、一歩だけ僕に近づく。

 その距離は、甘く、危険な香りを孕んでいた。

 

「私の香りは、どうだったの?」

 

 ──試されている。

 ──逃げられない。

 

 僕はごくりと喉を鳴らして、必死に言葉を探した。

 

「そ、それは……」

「それは?」

 

 遥香が顔を近づけて、柔らかなシャンプーの香りと、
 かすかに汗ばむ甘酸っぱい匂いが、鼻腔を満たした。

 

「……す、すごく、色っぽかった、です……」

 

 答えた瞬間。

 ルナが机をバンッと叩いた。

 

「なんだよそれー!!!」

 

 美月は静かにため息をつき、
 紅葉はメモ帳に何かを書き込み、
 いぶきは、未だに顔を真っ赤にして俯いていた。

 

 

 ──正妻戦争、再燃。

 

 この秋、香りと恋のバトルは、ますます加速していく。

 

 そして僕は思った。

 

(鼻って、命がけだな……)

 

 

 つづく。
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