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壱の章 1589年 独眼竜
壱の四
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「殿に御目通りしたき者がおりますがよろしいでしょうか」
そう小十郎が言ったため一度は退室した政宗であったが大広間に戻る。
上座の真ん中に座ると、小十郎がパンパンと手をたたき合図をすると廊下に
続く障子が開かれた。
そこには二人の男がひれ伏していた。
「殿、この両名、黒脛巾組の頭目にございます」
小十郎がそう紹介すると、
「許す、面を上げて名を申せ」
そう政宗が言った。
すると、少しだけ頭を上げて、
「柳原戸兵衛にございます」
「瀬世蔵人にございます」
と、答えた。
「黒脛巾組と言えば、人取り橋と摺上原の戦いに良い働きをしていたと聞いておるぞ
改めて礼を申さねばと思っていたが」
「はっ、この者たちの流言により人取り橋では蘆名連合軍を惑わし退却に追いやった
働きにございます」
「であるか、なら恩賞を与えねばな」
「はい、いかがでしょうか、正式に伊達家の家臣として召し抱えては?」
「小十郎が推挙するには何か考えがあるのだな?」
と、政宗が言いたかったであろう言葉を成実が口に出した。
「はい、あります。しかし、裏の働きになりますゆえ私たちだけの時に呼び出した
次第にございます」
「ん、わかった。まずは恩賞として千石を両名に与え、侍大将とするが良いか?」
「過ぎたる恩賞ありがたき幸せ」
「身命なげうち伊達家の御為、働かせていただきます」
恩賞に対してありがたく受けるという二人は先ほど上げたばかりの頭を床に
こすれんばかりにつけていた。
「両名、大儀である」
「小十郎、陰働きと申したからには考えはなんぞ?」
またしても政宗の心を先に口にする成実。
伊達藤五郎成実は政宗の一歳下、幼少のころは師を同じくしたころもあり、
野望満ち溢れる政宗と同じ気質を持っていた。
だからこそ、政宗の心を以心伝心でわかってしまう。
「はい、京に送ろうと思いますがいかがでしょうか?」
誰もいないであろう大広間であったが隠すように小声で言う小十郎。
「なるほどな、良いな」
「殿、では、これですか?」
と、成実は腰の扇子を出して首にあてた。
「で、ある」
「では、殿は付き従う考えはなきですな?」
「成実、みなまで申す必要はないであろう」
「ぬははははははは、それでこそ我が御大将」
豪快な笑いをする成実に少し冷ややかな目線を送る小十郎。
「では、この者たちは小十郎の与力として働かせよ、後のことは任せたぞ」
「万事承知」
「御大将にお願いしたきことこれあり」
ひれ伏していた柳原戸兵衛が言い出した。
「ん、構わぬ申せ」
「はっ、我らの忠義偽りなきことのあかしとしまして、我が娘を献上いたしたく
お願い申し上げます」
続いて、瀬世蔵人も
「我も同じく」
その言葉に一呼吸置いた後、政宗が
「人質か、いらぬ」
「いえ、もちろん人質でもありますが御大将の警護といたしまして御傍に置いて
いただきたく」
「くノ一か?逆に寝首をかくつもりであるまいな?」
と、睨みつける成実。
「滅相もございません。あのものに敵対するということは、外だけでなく内にも
敵を作るということ、そのための警護にございます」
そう瀬世蔵人が言うと小十郎がうなずいていた。
「小十郎、これもお主の考えか?」
「はい、過ぎたること承知の上で私からもお願いいたします」
「なら良い、傍勤めを許す」
幼少から近習となり、支えてきた小十郎に絶大な信頼を置いているからこその言葉であった。
「では、さっそく本日よりお傍係として置かせていただきます」
と、小十郎が言うと大広間の隣に続く襖が開けられるとそこにはひれ伏した女が二人いた。
「小十郎、こうなることわかっていたな?」
「申し訳ございません」
「まあ、良い、我が傍に仕えるのだからしっかり顔を見せよ」
そう政宗が言うと二人は顔をあげた。
「柳原戸兵衛の娘、羽黒と申します」
「瀬世蔵人の娘、鳴子と申します」
「ん、よろしく頼んだぞ」
二人の娘は、歳は16、17歳ぐらい少し日に焼けてはいたものの武家の娘と
言われればそう見える身なり、しかし、床につかれていた手指は節々が太く
何かしらの修練を積んでいるのではないか?と、見えてしまう指をしていた。
「成実、我が心がわかったからには良いな?先ほどの評定で申した通りしばらくは
様子見だが準備を怠るな」
「しかと承知」
成実の目は南に向けられていた。
そう小十郎が言ったため一度は退室した政宗であったが大広間に戻る。
上座の真ん中に座ると、小十郎がパンパンと手をたたき合図をすると廊下に
続く障子が開かれた。
そこには二人の男がひれ伏していた。
「殿、この両名、黒脛巾組の頭目にございます」
小十郎がそう紹介すると、
「許す、面を上げて名を申せ」
そう政宗が言った。
すると、少しだけ頭を上げて、
「柳原戸兵衛にございます」
「瀬世蔵人にございます」
と、答えた。
「黒脛巾組と言えば、人取り橋と摺上原の戦いに良い働きをしていたと聞いておるぞ
改めて礼を申さねばと思っていたが」
「はっ、この者たちの流言により人取り橋では蘆名連合軍を惑わし退却に追いやった
働きにございます」
「であるか、なら恩賞を与えねばな」
「はい、いかがでしょうか、正式に伊達家の家臣として召し抱えては?」
「小十郎が推挙するには何か考えがあるのだな?」
と、政宗が言いたかったであろう言葉を成実が口に出した。
「はい、あります。しかし、裏の働きになりますゆえ私たちだけの時に呼び出した
次第にございます」
「ん、わかった。まずは恩賞として千石を両名に与え、侍大将とするが良いか?」
「過ぎたる恩賞ありがたき幸せ」
「身命なげうち伊達家の御為、働かせていただきます」
恩賞に対してありがたく受けるという二人は先ほど上げたばかりの頭を床に
こすれんばかりにつけていた。
「両名、大儀である」
「小十郎、陰働きと申したからには考えはなんぞ?」
またしても政宗の心を先に口にする成実。
伊達藤五郎成実は政宗の一歳下、幼少のころは師を同じくしたころもあり、
野望満ち溢れる政宗と同じ気質を持っていた。
だからこそ、政宗の心を以心伝心でわかってしまう。
「はい、京に送ろうと思いますがいかがでしょうか?」
誰もいないであろう大広間であったが隠すように小声で言う小十郎。
「なるほどな、良いな」
「殿、では、これですか?」
と、成実は腰の扇子を出して首にあてた。
「で、ある」
「では、殿は付き従う考えはなきですな?」
「成実、みなまで申す必要はないであろう」
「ぬははははははは、それでこそ我が御大将」
豪快な笑いをする成実に少し冷ややかな目線を送る小十郎。
「では、この者たちは小十郎の与力として働かせよ、後のことは任せたぞ」
「万事承知」
「御大将にお願いしたきことこれあり」
ひれ伏していた柳原戸兵衛が言い出した。
「ん、構わぬ申せ」
「はっ、我らの忠義偽りなきことのあかしとしまして、我が娘を献上いたしたく
お願い申し上げます」
続いて、瀬世蔵人も
「我も同じく」
その言葉に一呼吸置いた後、政宗が
「人質か、いらぬ」
「いえ、もちろん人質でもありますが御大将の警護といたしまして御傍に置いて
いただきたく」
「くノ一か?逆に寝首をかくつもりであるまいな?」
と、睨みつける成実。
「滅相もございません。あのものに敵対するということは、外だけでなく内にも
敵を作るということ、そのための警護にございます」
そう瀬世蔵人が言うと小十郎がうなずいていた。
「小十郎、これもお主の考えか?」
「はい、過ぎたること承知の上で私からもお願いいたします」
「なら良い、傍勤めを許す」
幼少から近習となり、支えてきた小十郎に絶大な信頼を置いているからこその言葉であった。
「では、さっそく本日よりお傍係として置かせていただきます」
と、小十郎が言うと大広間の隣に続く襖が開けられるとそこにはひれ伏した女が二人いた。
「小十郎、こうなることわかっていたな?」
「申し訳ございません」
「まあ、良い、我が傍に仕えるのだからしっかり顔を見せよ」
そう政宗が言うと二人は顔をあげた。
「柳原戸兵衛の娘、羽黒と申します」
「瀬世蔵人の娘、鳴子と申します」
「ん、よろしく頼んだぞ」
二人の娘は、歳は16、17歳ぐらい少し日に焼けてはいたものの武家の娘と
言われればそう見える身なり、しかし、床につかれていた手指は節々が太く
何かしらの修練を積んでいるのではないか?と、見えてしまう指をしていた。
「成実、我が心がわかったからには良いな?先ほどの評定で申した通りしばらくは
様子見だが準備を怠るな」
「しかと承知」
成実の目は南に向けられていた。
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