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第10話 『たった一行の感想を、ずっと待っている』
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レビュー欄は、今日も空白だった。
Web小説投稿サイトの、自作作品ページ。
タイトル下に表示される「ブックマーク数」「評価ポイント」「閲覧数」、そして「感想欄」。
その中で、一真が最も長く見つめていたのが、空白の感想欄だった。
投稿開始から、もう八年が経つ。
書いた話数は、今日の更新で3805話目。
物語の舞台は王国から帝国へ、仲間は世代を超え、魔王との戦いもすでに二度終わっている。
なのに、感想欄には――たった一行すら、書かれていなかった。
いや、正確には過去に一度だけ、あった。
『キャラの名前が覚えづらいです』
それだけだった。
それきり、誰も何も書かなくなった。
善意でも悪意でも、なんでもよかった。
褒められたくて書いてるわけじゃない。
けれど、「読んだ」と一言でも残してくれる人がいれば、それはこの物語が“生きている”という証だった。
けれど、誰もいない。
彼の書く5,000文字超の文章は、誰の言葉も受け取らないまま、空中に漂っているようだった。
彼はふと、自分で自作に感想を書いてみようかと思った。
ふざけて。
あるいは、読者に錯覚させるために。
「誰かが読んでる」と、思わせるために。
でも、その手はすぐに止まった。
自分で自分を偽ってまで、延命させたくはなかった。
それよりも――本当に“たったひとり”でもいいから、感想をくれる誰かを待ちたいと思った。
夜、彼はいつも通り、今日の更新を終えた。
『薄明の大地に立つ勇者は、ふと剣を置いて、誰かの声が聞こえないかと耳を澄ませた。
風だけが吹いていた。
でも、彼はそれでも笑った。
“まだ、誰かが読んでくれている気がする”と。』
タイトルを打ち込む。
『声なき声を、今日も探している』
保存。投稿。
数分後、画面の隅に通知が届く。
♥1
runa0213。
彼の作品に、毎日欠かさず反応をくれる、たったひとつの存在。
コメントはない。
けれど、数秒違わず、そのハートマークは押されていた。
彼は、今日もそれを見て、PCの前で小さくうなずいた。
「……ありがとな。
それだけで、なんとか書き続けられるんだよ」
しばらくして、もう一度、感想欄を開く。
画面は変わらない。
真っ白な欄。何も書かれていない。
けれど、その“白さ”を、彼は今日は少しだけ優しく見つめていた。
誰かが、何かを“書こうとしてくれたかもしれない”
その余白すらも、今の彼には救いだった。
画面を閉じる前に、一真はふと、マウスを「自作品一覧」へと移動させた。
過去に書いた短編、読み切り、途中で止まった連載。
どれも、感想はゼロ。
けれど、その中のひとつ――短編『夜にだけ鳴るベル』だけに、唯一の「いいね」がついていた。
runa0213
彼女は、あの作品にも触れていた。
その作品は、五年前に書いた、完全な独白形式の短編だった。
読者の存在を前提とせず、ただ、“誰にも届かない手紙”として書かれた話。
今思えば、あれは彼自身が「感想のない人生」に絶望した夜に書いたものだった。
『誰かに褒めてほしいわけじゃない。
でも、読んだって言ってほしい。
たった一行でいい。
“面白かったです”とか、“なんか泣けました”とか。
それだけで、呼吸ができるのに。』
彼はその短編を、久しぶりに読み返した。
自分で書いた文章なのに、今はまるで他人が書いたもののように思えた。
でも、それでも――やはりどこか、胸が震えた。
読み終えたあと、彼はまた今日の更新画面に戻り、こう書き足した。
『それでも勇者は、毎夜書き続けた。
誰かが「読んだ」と言ってくれるその瞬間を、信じていたから。』
感想欄は、今日も空白だった。
けれど、その空白は、いつか“誰かの言葉”が現れる可能性に満ちていた。
だから彼は明日もまた書く。
たった一行の感想を、ずっと待ちながら。
Web小説投稿サイトの、自作作品ページ。
タイトル下に表示される「ブックマーク数」「評価ポイント」「閲覧数」、そして「感想欄」。
その中で、一真が最も長く見つめていたのが、空白の感想欄だった。
投稿開始から、もう八年が経つ。
書いた話数は、今日の更新で3805話目。
物語の舞台は王国から帝国へ、仲間は世代を超え、魔王との戦いもすでに二度終わっている。
なのに、感想欄には――たった一行すら、書かれていなかった。
いや、正確には過去に一度だけ、あった。
『キャラの名前が覚えづらいです』
それだけだった。
それきり、誰も何も書かなくなった。
善意でも悪意でも、なんでもよかった。
褒められたくて書いてるわけじゃない。
けれど、「読んだ」と一言でも残してくれる人がいれば、それはこの物語が“生きている”という証だった。
けれど、誰もいない。
彼の書く5,000文字超の文章は、誰の言葉も受け取らないまま、空中に漂っているようだった。
彼はふと、自分で自作に感想を書いてみようかと思った。
ふざけて。
あるいは、読者に錯覚させるために。
「誰かが読んでる」と、思わせるために。
でも、その手はすぐに止まった。
自分で自分を偽ってまで、延命させたくはなかった。
それよりも――本当に“たったひとり”でもいいから、感想をくれる誰かを待ちたいと思った。
夜、彼はいつも通り、今日の更新を終えた。
『薄明の大地に立つ勇者は、ふと剣を置いて、誰かの声が聞こえないかと耳を澄ませた。
風だけが吹いていた。
でも、彼はそれでも笑った。
“まだ、誰かが読んでくれている気がする”と。』
タイトルを打ち込む。
『声なき声を、今日も探している』
保存。投稿。
数分後、画面の隅に通知が届く。
♥1
runa0213。
彼の作品に、毎日欠かさず反応をくれる、たったひとつの存在。
コメントはない。
けれど、数秒違わず、そのハートマークは押されていた。
彼は、今日もそれを見て、PCの前で小さくうなずいた。
「……ありがとな。
それだけで、なんとか書き続けられるんだよ」
しばらくして、もう一度、感想欄を開く。
画面は変わらない。
真っ白な欄。何も書かれていない。
けれど、その“白さ”を、彼は今日は少しだけ優しく見つめていた。
誰かが、何かを“書こうとしてくれたかもしれない”
その余白すらも、今の彼には救いだった。
画面を閉じる前に、一真はふと、マウスを「自作品一覧」へと移動させた。
過去に書いた短編、読み切り、途中で止まった連載。
どれも、感想はゼロ。
けれど、その中のひとつ――短編『夜にだけ鳴るベル』だけに、唯一の「いいね」がついていた。
runa0213
彼女は、あの作品にも触れていた。
その作品は、五年前に書いた、完全な独白形式の短編だった。
読者の存在を前提とせず、ただ、“誰にも届かない手紙”として書かれた話。
今思えば、あれは彼自身が「感想のない人生」に絶望した夜に書いたものだった。
『誰かに褒めてほしいわけじゃない。
でも、読んだって言ってほしい。
たった一行でいい。
“面白かったです”とか、“なんか泣けました”とか。
それだけで、呼吸ができるのに。』
彼はその短編を、久しぶりに読み返した。
自分で書いた文章なのに、今はまるで他人が書いたもののように思えた。
でも、それでも――やはりどこか、胸が震えた。
読み終えたあと、彼はまた今日の更新画面に戻り、こう書き足した。
『それでも勇者は、毎夜書き続けた。
誰かが「読んだ」と言ってくれるその瞬間を、信じていたから。』
感想欄は、今日も空白だった。
けれど、その空白は、いつか“誰かの言葉”が現れる可能性に満ちていた。
だから彼は明日もまた書く。
たった一行の感想を、ずっと待ちながら。
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