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第13話 『今日という日は、どこへも届かない』
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雨は降っていなかった。
雲もなかった。
風もなかった。
けれど、それでも“何もない一日”がそこにあった。
朝倉一真は、午後の光の中で、カーテンを半分だけ開けた部屋にいた。
外の景色は、いつも通りだった。
干された洗濯物、遠くの道路、角を曲がる自転車。
日常のすべてが、等速で流れていた。
そして、自分の一日は、ただ黙ってそこに置き去りにされていた。
今日、一真は何もしなかった。
物語も書かなかった。
スーパーにも行かなかった。
メールも、SNSも開かなかった。
目覚めて、スマホの画面をぼんやり見つめて、二度寝して。
昼に目が覚めて、買い置きのバナナを一本食べて。
風呂も入らず、歯も磨かず、ただぼーっと座っていた。
誰にも見られない、誰にも語られない一日。
「記録されることのない時間」というやつだった。
だが、それでも。
その“何もしなかった日”が、彼の人生から消えてしまうことが、妙に怖かった。
ふと、スマホのカメラを起動した。
撮るものは何もない。
ただ、窓の外。
空の色。
机の上のコップ。
使いかけのボールペン。
それをぽつぽつと撮っていく。
どこかに載せるわけでもない。
でも、こうして「今日の存在」を切り取っておかないと、
本当にこの一日が“なかったこと”になってしまいそうで。
以前、誰かが言っていた。
「一日をちゃんと終わらせるには、日記をつけるといいんだよ」
日記帳なんて持っていない。
でも、一真には「投稿画面」があった。
そして、物語を書く場所があった。
だから彼は、キーボードの前に座った。
物語の登場人物たちは、今夜も動き出さなかった。
それでも、彼は“語るように”書き始めた。
『その日、戦士は何の任務も与えられなかった。
剣を抜くことも、誰かを守ることも、何もなかった。
ただ朝が来て、昼が来て、夜が来た。
それだけの日だった。
でも彼は、それを忘れたくなかった。
何も起きなかった日もまた、生きた証であり、
静かな戦いだったのだと、後で誰かに伝えるために。』
書き終えて、投稿ボタンを押す。
いつもより少しだけ早い更新だった。
通知は数分後に届いた。
♥1
runa0213。
彼のたった一人の読者。
この“意味のなかった今日”にも、反応をくれた。
思わず、画面の前で小さく息を吐いた。
「……君にしか、届かないかもしれない。
でも、それでも、届いたんだよな……」
PCを閉じて、部屋の中を見回す。
何も変わっていない。
けれど、“見ておこう”という気持ちが、少しだけ芽生えていた。
窓から覗いた空は、オレンジ色に染まりかけていた。
この一日が、誰の記憶にも残らないとしても。
SNSにもアップされず、誰かの会話にも出てこなかったとしても。
一真は確かに、“今日”という時間の中に生きていた。
そのことを、誰かが“認めてくれた”ような気がした。
夜、寝る前。
スマホの電源を切ろうとして、ふと止める。
ロック画面のまま、光だけを眺めた。
通知はなかった。
だけど、そこには今日という日付と、時間が確かに表示されていた。
2025年6月12日 木曜日 22:56
その日付が、確かに“自分がいた証”だった。
『今日という日は、どこへも届かない。
誰にも報告されない。
けれど、それでも生きた。
それが、明日へ繋がる理由になってくれると、信じたい。』
雲もなかった。
風もなかった。
けれど、それでも“何もない一日”がそこにあった。
朝倉一真は、午後の光の中で、カーテンを半分だけ開けた部屋にいた。
外の景色は、いつも通りだった。
干された洗濯物、遠くの道路、角を曲がる自転車。
日常のすべてが、等速で流れていた。
そして、自分の一日は、ただ黙ってそこに置き去りにされていた。
今日、一真は何もしなかった。
物語も書かなかった。
スーパーにも行かなかった。
メールも、SNSも開かなかった。
目覚めて、スマホの画面をぼんやり見つめて、二度寝して。
昼に目が覚めて、買い置きのバナナを一本食べて。
風呂も入らず、歯も磨かず、ただぼーっと座っていた。
誰にも見られない、誰にも語られない一日。
「記録されることのない時間」というやつだった。
だが、それでも。
その“何もしなかった日”が、彼の人生から消えてしまうことが、妙に怖かった。
ふと、スマホのカメラを起動した。
撮るものは何もない。
ただ、窓の外。
空の色。
机の上のコップ。
使いかけのボールペン。
それをぽつぽつと撮っていく。
どこかに載せるわけでもない。
でも、こうして「今日の存在」を切り取っておかないと、
本当にこの一日が“なかったこと”になってしまいそうで。
以前、誰かが言っていた。
「一日をちゃんと終わらせるには、日記をつけるといいんだよ」
日記帳なんて持っていない。
でも、一真には「投稿画面」があった。
そして、物語を書く場所があった。
だから彼は、キーボードの前に座った。
物語の登場人物たちは、今夜も動き出さなかった。
それでも、彼は“語るように”書き始めた。
『その日、戦士は何の任務も与えられなかった。
剣を抜くことも、誰かを守ることも、何もなかった。
ただ朝が来て、昼が来て、夜が来た。
それだけの日だった。
でも彼は、それを忘れたくなかった。
何も起きなかった日もまた、生きた証であり、
静かな戦いだったのだと、後で誰かに伝えるために。』
書き終えて、投稿ボタンを押す。
いつもより少しだけ早い更新だった。
通知は数分後に届いた。
♥1
runa0213。
彼のたった一人の読者。
この“意味のなかった今日”にも、反応をくれた。
思わず、画面の前で小さく息を吐いた。
「……君にしか、届かないかもしれない。
でも、それでも、届いたんだよな……」
PCを閉じて、部屋の中を見回す。
何も変わっていない。
けれど、“見ておこう”という気持ちが、少しだけ芽生えていた。
窓から覗いた空は、オレンジ色に染まりかけていた。
この一日が、誰の記憶にも残らないとしても。
SNSにもアップされず、誰かの会話にも出てこなかったとしても。
一真は確かに、“今日”という時間の中に生きていた。
そのことを、誰かが“認めてくれた”ような気がした。
夜、寝る前。
スマホの電源を切ろうとして、ふと止める。
ロック画面のまま、光だけを眺めた。
通知はなかった。
だけど、そこには今日という日付と、時間が確かに表示されていた。
2025年6月12日 木曜日 22:56
その日付が、確かに“自分がいた証”だった。
『今日という日は、どこへも届かない。
誰にも報告されない。
けれど、それでも生きた。
それが、明日へ繋がる理由になってくれると、信じたい。』
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