「突然、幼馴染が『これから女の子として生きる』って言い出したんだけど、俺、どう反応すればいいんだよ！？

第40話：「“ぼくの家族”を語るとき、嘘がひとつ、剥がれる」

　日曜日の午後。
　いつものように、誠の部屋の窓から陽が差し込む。

　奏は、座布団の上に正座しながら、ふと誠に尋ねた。

「そういえば……誠のご両親って、どんな人？」

　その問いに、誠は少しだけ表情を硬くした。

「――会ったこと、ないんだ。」

「え？」

　奏の顔から、ふっと笑みが消える。

「俺、小さい頃に……両親と別れて、それからずっと“育ての親”の家にいた。
　でも、そこもあまり……長くはいられなかった。」

　奏は言葉を飲み込み、静かに待った。

　誠は続ける。

「結局、児童相談所を経て、今の祖母の家に落ち着いたのが、中学のとき。
　だから、正式な“家族”っていうのが、俺にはあまりないんだ。」

「……ずっと、一人だったの？」

　誠は苦笑しながら首を振った。

「そんなかっこよくないよ。
　誰にも心を開けなかっただけ。
　“誰かに自分を全部話す”ってことが、ずっと怖かった。」

「でも、それでも君は、奏には全部言ってくれてたじゃない。」

「……うん。
　だから今日、奏にだけは“ちゃんと嘘を剥がしておきたい”と思った。」

　“話す”ことの重さとやさしさ
　誠は、机の引き出しから一枚の写真を取り出す。

　そこには、幼い頃の彼が、年老いた女性の隣で笑っている写真。

「今の“祖母”は、ほんとは血縁じゃない。
　でも、唯一、俺のことを“誠”って呼んでくれた人だった。
　戸籍の名前さえ、正確には自分で分からないんだ。」

　奏は、そっとその写真を受け取って、静かに言った。

「じゃあ、私が初めて出会った“高岡誠”っていうのは……」

「そう。
　“高岡”は、祖母の旧姓。
　“誠”は……俺が、自分で名乗ることにした名前。」

　奏は写真を見つめたまま、ぽつりと言った。

「その名前、すごく似合ってるよ。」

「そう、かな？」

「うん。“嘘”を隠すためじゃなく、“誠実でありたい”って気持ちが込められてる気がする。」

　誠は、少しだけ目を伏せたあと、静かに微笑んだ。

　夕方、ふたりの沈黙と再出発
　陽が傾く。
　窓のカーテンに夕焼け色がにじむ。

「……私、少しだけ安心したかも。」

「え？」

「だって、誠も“怖かった過去”を持ってるって知って、
　私が一方的に“支えてもらってばかり”じゃないんだって分かったから。」

「……奏。」

「ねえ、誠。
　私たち、どこにも帰る場所がなくなったとしても――
　“ふたりで一緒にいられるなら”、きっとそれでいいんだよね。」

　誠は、その言葉に深く頷いた。

「それが、“家族”なんだと思う。」

　そして、静かに手を重ねた。

　その夜、誠のメッセージ
【誠：今日、過去のことを話して、少しだけ楽になった。】
【誠：でも、それ以上に、“君が受け止めてくれた”ってことが、すごく大きかった。】
【奏：私も、今日で誠のことを“もっと好き”になった。】
【奏：嘘を剥がしてくれて、ありがとう。】

　画面の文字を見つめながら、誠はひとつ深く息を吐いた。

　“話す”って、怖い。でも、“信じてもらえる”って、こんなに救いなんだ。

　そう思った。