「突然、幼馴染が『これから女の子として生きる』って言い出したんだけど、俺、どう反応すればいいんだよ！？

第42話：「わたしたちの恋は、誰かの噂で崩れたりしない」

　月曜日の朝。
　大洗から帰ってきた翌日、いつも通りの制服、いつも通りの駅、
　そして――いつもよりほんの少し、強く手を握り合うふたり。

「なんか、現実に戻ってきたって感じだね。」

「うん。でも、不思議と怖くない。」

　誠は、隣で歩く奏の横顔を見ながら、静かにそう思った。
　これまでなら、“噂”や“視線”が怖かった。
　でも今は――“奏と手を繋いでいる”という事実が、すべてを塗り替えていた。

　教室のざわめき
「見た？ あのふたり、手つないでた。」

「この前の土日、どっか泊まりで出かけてたらしいよ？」

「うそ……マジで付き合ってんの？」

「てかさ、あれ、もう“そういう関係”ってやつじゃない？」

　低く、濁った声が、教室の空気をじわじわと浸食していく。

　誠は、あえて聞こえないふりをしようとした。
　でも――隣にいる奏が、小さく深呼吸して、すっと席を立った。

　奏の一言
「ごめんね。
　噂の材料にしてもらっても構わないけど――
　私たち、隠すつもりないから。」

　その一言に、クラスの空気が一瞬止まった。

「泊まりで出かけたのも本当。
　でも、それだけで想像を膨らませて騒ぎたいなら、
　それはそっちの自由。
　ただ、私たちは“ふたりで過ごした時間”をちゃんと大切にしてる。
　だから、それを軽く言われるのは、ちょっと寂しいなって思っただけ。」

　教室の隅で笑っていた生徒が、ばつが悪そうに目をそらす。

「そういうのって……言葉にされると、やばいな……」

　小さな声が漏れ、空気が静かに鎮まっていった。

　昼休み、屋上にて
　ふたりきりの空。

「ごめん、さっきの……勢いで言いすぎたかも。」

　奏が、ペットボトルを手に言う。

「いや、最高だった。」

　誠はまっすぐに言った。

「俺、正直……クラスメイトが何言うかちょっと気にしてた。でも、奏が言ってくれて、心の中がスッと軽くなった。」

「……誠。」

「俺も、もし誰かに“あいつ、ああ見えて実は”とか、“付き合う相手、普通じゃないよな”とか言われたら――
　そのときはちゃんと、言い返すって決めてた。」

「それって……守るってこと？」

「違う。“並んで立つ”ってこと。
　君が“言葉で選んだ人”なら、俺も“言葉で選ぶ”。
　この関係は、俺たちふたりのものだから。」

　奏はそっと誠の手を取り、指を絡めた。

「ねえ、誠。
　私たちの恋って、いつまで続くと思う？」

「永遠、って言いたいけど、ちょっとだけ怖い言葉だな。」

「……じゃあ、“続ける限りは続く”？」

「それ、名言。」

　ふたりは笑い合いながら、風の中で肩を寄せ合った。

　その夜のメッセージ
【奏：今日、怖くなかったのは、たぶん昨日あなたの寝顔を見たからだと思う。】
【誠：えっ、寝顔バレてたの？】
【奏：可愛かったよ。ずっと見てた。】
【誠：なんか恥ずかしいけど、うれしい。】
【奏：噂されても、冷やかされても、
　わたしは“あなたの彼女”でいると決めたから。】

【誠：じゃあ俺も、“君の彼氏”でい続けるよ。
　誰に何を言われても、奏を選んだ俺は変わらない。】