『夜、肌に触れるのは君じゃない――甘くて冷たい心霊体験短篇集』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『夜、肌に触れるのは君じゃない ――第三夜』

第38話『噂の動画は、抜いたらダメ』

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 ──“その動画、最後まで見ながら抜いたら出るらしいよ。画面の中から、女が”

 ネットの片隅、深夜の掲示板や匿名スレにだけ現れるリンク。
 タイトルは毎回違う。
 投稿者も削除される。
 だけど、**「絶頂映像」**という共通のタグだけがついている。

 ある日、興味本位でそのURLを踏んだ。

(どうせ加工モノか、ありふれたAVだろ)

 軽い気持ちで再生した。
 内容は、ごく普通の自慰動画。
 女がカメラに向かって喘ぎながら、
 自分の指でゆっくりと身体を愛撫していく。

 動きも声も、妙にリアル。
 カメラの向こうの誰かに語りかけてくるような視線。

「こっちも触って」
「いっしょに、いこ?」

 演技には見えなかった。
 まるで──本当に“こっちを見ている”ようだった。

 *

 ラスト2分。
 自分も我慢できなくなって、
 ズボンの中に手を伸ばした。

 動画の女は、荒い呼吸で喘ぎながら、
 画面の奥へとにじり寄ってくる。

「……もうすぐでしょ? ちゃんと見ててね……」

 その瞬間、
 画面の中で**“別の顔”が女の肩越しに現れた。**

 長い髪、真っ黒な瞳。
 まったく無表情のまま、
 じっとこちらを“覗き込んで”いた。

 思わず再生を止めた。

 だが、その数秒後──
 スマホの画面が勝手に再起動し、動画がまた始まった。

 映像はラストの直前から。
 あの女が、口元に笑みを浮かべながら、こう囁いた。

「……続きを、しよ?」

 音声だけが、イヤホンを通して耳の奥に染み込んだ。

 ぞくりと震えたと同時に、
 自分の手が“もう自分の意志ではない”ように動いていた。

 *

 以降、自慰をするたびに異変が起きた。

 目を閉じると、すぐに**“指先以外の感覚”**が先に達してしまう。
 誰かが、自分の下腹を舌で押し上げるような、奇妙な快感。

 手の動きと関係なく、
 脈打つような感触が下半身から先に来る。

 終わったあと、
 何もしていないのに、
 手に“唾液のような液体”がついていた。

(……誰が触ってる?)

 試しに録画してみた。
 カメラは真っ暗になる。

 だが、音声にははっきりと、
「ん……出していいよ」「私の中に、先に来てるから」
 そんな別の女の声が残っていた。

 *

 もう元には戻れない。

 普通の動画じゃ興奮しない。
 人の声にも、肌にも、何も反応できない。

 今ではもう、
 “あの動画の空気”に触れないとイけない身体になってしまった。

 それでも……
 夜、部屋を暗くしてスマホを持てば、
 画面越しにあの女は現れる。

 今夜も言うだろう。

「……ねぇ、まだ終わってないでしょ?
 わたし、あなたが抜いてくれるの、ずっと待ってるんだよ」

 ──たとえこの先、何度“出されても”、
 本当に“抜ける”のは、自分じゃない。

【完】
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