同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一話 妹、ここに爆誕す。

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春。
 空がどこまでも高くて、雲ひとつない。風がやけに穏やかで、やる気のない俺にはそれすらもイラつくくらいの晴天だった。

 そんな日に、事件は起こる。
 そう、あの日から。俺の人生が一気に“日常ラブコメ妹アレルギー”に傾くまでのカウントダウンが、静かに始まっていたのだ――。

「うわ、キモ……なにこれ」

 その一言で、俺の人生は決定的に狂った。

 茨城県つくば市の、築二十年木造二階建てアパートの一室――通称、“俺の城”。
 そこに入ってきた女は、開口一番にそう言い放った。息を吸うように、人を傷つける発言を投げてきた。

「……よぉ。久しぶり、碧純」

「三年ぶりに会って、第一声が『よぉ』って何? 社会性どこに置いてきたの?」

 その女。肩までの黒髪を一つにまとめたポニーテールに、鋭すぎる眼差し。中学の制服をまだ着てるのが逆に不自然に見えるほど、妙に大人びた雰囲気をまとっていた。

 ――碧純(かすみ)。俺の“妹”である。
 正確には、母方の叔父の娘。つまりは従妹。でも戸籍上も形式上も、彼女は“妹”だ。

「てか、この部屋……終わってる。え、なんで床に雑誌積んでんの? 寝床どこ? 生活空間って概念、ここには存在しないの?」

「あるわっ。俺の中にはあるんだよ、空間美ってやつが!」

「なにそれ、汚部屋の言い訳ランキング一位?」

 ちなみに彼女が今踏んでいるのは、俺が中学の頃から大切にしていた**“大人の書籍コーナー”**。Amazonでこっそり買った高級同人誌たちの山だ。

「触るなああああああああああ!」

「触るまでもない。既に汚染されてる。精神的に。いやマジで私、帰っていい?」

「だめです!! 今日から同居スタートです!! 逃げんな!!」

「なんであんたと同じ屋根の下に暮らすことになんのよ……」

「こっちのセリフだよ!!」

 声を荒げた瞬間、隣の部屋の壁をコンコンと叩かれた。
 ……ごめんなさい、お隣さん。

 話は、三日前に遡る。

「ちょっと、お前のとこに碧純を預かってくれ」

 母の電話は、唐突だった。三年ぶりの連絡だというのに、内容がこれである。

「いや、待って? 俺一人暮らししてるんだけど?」

「わかってる。でも叔父さんとこがね……ちょっと色々あって」

「……離婚?」

「バレた? さすが我が子」

 軽っ。

 いやまあ、何となくそんな気はしてた。碧純の家庭は昔からギスギスしてたし、叔父さんは仕事人間だったし、叔母さんは夜勤続きだった。

 俺が中三のときに、親同士の相談で一度だけ“同居”していたことがある。

 だがそのときの記憶ときたら、もう、トラウマ級で。

「兄妹っていうか、監視官と被監視者だったよな……」

「そりゃあんたが碧純にエ○本見つかって説教されたからでしょ」

「言うなやああああああああ!!」

 そして現在。

 俺の部屋で、妹はリュックを下ろし、腕を組んで冷たい目をしている。

「とりあえず、一言いい?」

「な、なんだよ……」

「キモい。以上」

「開始二分でその評価……!」

 その後、彼女は無言で部屋をぐるっと一周し、ふうっとため息を吐いた。

「とりあえず片付けて。私、ここに住むの無理だから」

「いや、そんな急に言われても……」

「今日の夜までにこの“戦場”を“人間の住処”にしないと、私、荷物置いて帰るから」

 そう言い捨てて、彼女は奥の六畳間に勝手に入っていった。
 そこは俺が“物置”にしていた部屋。掃除機すら入らない聖域だ。

 ……その夜、俺は本気で泣きながら片付けを始めた。

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