同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
23 / 630

第二十二話 誰にも渡したくない、なんて

しおりを挟む
 月曜の放課後。

 俺は、図書室へ行こうと昇降口を通りかかった――
 そこで、偶然見てしまった。

「真壁さん、ちょっと……話、いいかな」

 そう声をかけたのは、同じ学年の男子、石倉 蓮(いしくら・れん)。
 バレー部でそこそこイケメン、明るくて、女子人気もある。

 けど今――
 その彼が、俺の妹に告白しようとしている。

 廊下の端、誰もいない死角。

 碧純は驚いた顔で立ち止まっていて、石倉は真剣な目をしていた。

(まさか……)

 心臓が、ひときわ強く鳴った。

「俺、ずっと思ってた。真壁さんって……他の女子とは違う。
 落ち着いてて、でも芯が強くて、気づかいもできて……すごく、惹かれてたんだ」

「……あの、私……」

「今すぐ返事くれとは言わない。でも、良かったら……俺と一度だけ、どこか出かけてみない?」

「……」

 俺の中で、何かが音を立てて崩れた。

(ダメだ――それ、言っちゃダメなんだよ)

(アイツは……碧純は、俺の――)

 でも“妹”に対して「渡したくない」と思う感情なんて、
 きっと、間違ってる。

 でも――

 それでも――

(言えよ。断れよ。断ってくれ。頼むから)

 心の中で、何度もそう叫んでいた。

 その瞬間。

 碧純が、はっきりとした声で言った。

「ごめんなさい。私、誰とも付き合うつもりはないから」

「……そっか」

 石倉は、無理に笑って一礼し、その場を去っていった。

 そして。

 彼がいなくなった瞬間。

「……お兄ちゃん、そこにいるの、気づいてるよ」

 ばれた。

 完全に、ばれていた。

 帰り道。

 二人きりの下校。

 沈黙の時間が続く中で、先に口を開いたのは碧純だった。

「……ああいうの、初めてだった」

「……そっか」

「私、断ったよ」

「見てた」

「なんで?」

「……見たくなかった。……けど、見てしまった」

「嫉妬、した?」

「……」

 言葉に詰まった俺を、彼女は見つめる。

 まっすぐな瞳。ごまかしのない、真剣な目。

「“妹に嫉妬”って、変だと思う?」

「……いや。変だよ。めちゃくちゃ変」

「うん。私も、そう思う。
 でも――私、石倉くんに言われたとき、頭の中に最初に浮かんだの、お兄ちゃんだった」

「……」

「ねえ、お兄ちゃん。
 “誰にも渡したくない”って思ったこと、ある?」

 それは、明らかに試されていた。
 覚悟を、問われていた。

 でも俺は――

「あるよ。今、そう思ってる」

 正直に、言葉にした。

 彼女の目が、大きく揺れた。
 でもその揺れは、嬉しさとも、戸惑いとも違って――

「……やっと、言ってくれた」

 ぽつりと呟いた声は、どこか泣きそうで、でも笑っていた。

 夜。

 リビングのソファで並んでテレビを観ていたとき、
 碧純がそっと俺の袖をつまんだ。

「ねえ、これからもし他の女子に言い寄られたら……」

「うん?」

「“妹がいるから”って、断って」

「……言えるかな」

「言って」

「……言ってやるよ。ちゃんと、はっきり」

 そのやり取りだけで、
 ふたりの関係はもう、“普通の兄妹”には戻れないところまで来ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...