同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二十四話 誰にも、知られたくないのに

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金曜の夕方。

 スマホが鳴った。

 表示された名前に、心臓が跳ねた。

【叔母:亜梨沙さん】
『日曜に顔出すわね。碧純の制服姿も見たいし♡』

 ――最悪のタイミング。

 叔母、つまり俺の母の妹で、碧純の母親。
 つまり、**あの子の“実母”**が、日曜にアパートに来る。

 なぜ最悪か?

 そりゃあ今、**俺たちは“兄妹という名の恋人未満”**という、地雷原みたいな関係にいるからだ。

 リビング。

「日曜、叔母さん来るってさ」

「……うそでしょ」

 碧純の顔が、目に見えて青ざめる。

「しかも、“制服姿見たい”って書いてあった」

「何その地雷セリフ!完全にフラグ立ってんじゃん!!」

「俺もそう思った。だから当日は、なるべく“兄妹”やるしかない」

「……できる?」

「……ぶっちゃけ、無理かもしれん」

「じゃあ、やるしかないね。“完璧な妹”ごっこ」

 彼女の口から、自然と“ごっこ”という単語が出る。
 でも今は、それが最も安全な仮面だった。

 そして、日曜当日。

 インターホンが鳴る。

「いらっしゃいませ、お母さん」

 碧純がドアを開けると、そこには30代後半、美人キャリアウーマン風の女性――叔母・亜梨沙さんが立っていた。

「まあまあ!ふたりとも、ちゃんとやってるじゃない!」

 ……やってる“とは”?

 リビングでの三者面談。

 俺はいつも通りを装い、
 碧純は普段の2割増しで猫をかぶっていた。

「どう? 一緒に暮らすの、大変じゃない?」

「ぜ、全然! お兄ちゃん、優しいですし……うん。紳士的というか……すごく、落ち着いてるっていうか」

(言葉選びが苦しすぎる!!)

「ふふっ、安心したわ。なんだか、夫婦みたいね」

「ぶっ!!?」

 俺は吹いた。お茶を。見事に。

「ちょっと大丈夫!? 変なとこ突いた!?」

「だ、だいじょうぶです……!! たまたま喉が……っ!」

(完全に心臓に悪い!!)

 夕方。

 亜梨沙さんが帰る直前、玄関先でそっと俺に言った。

「基氏くん。……碧純のこと、ちゃんと守ってね」

「……もちろんです」

 そのときの表情は、どこか“見抜いている”ようにも見えた。

 夜。リビング。

 二人きりになった途端、全身の緊張が抜けた。

「……なあ」

「……うん」

「今日の俺たち、うまく“兄妹”やれてたか?」

「……うん。80点くらい。でも」

「でも?」

「“バレてる気がする”のは、たぶん気のせいじゃないかも」

「……俺も、そんな気がしてた」

 そのまま、沈黙。

 ふたりとも、ソファで隣に並んでいたけど、
 手も繋がず、目も合わせない。

 でも、なぜか息は揃っていた。

「……バレたら、どうなると思う?」

「一緒にいられなくなる」

 その言葉の重みに、ふたりの身体が少し縮こまる。

「だから、今はまだ――“誰にも知られたくない”」

「……うん。私も」

 言葉は少ないのに、気持ちはちゃんと通じていた。
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